氏 名 クンポウン ウィラワン
KUMPOUN, Wilawan
本籍(国籍) タイ王国
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連研 第223号
学位授与年月日 平成15年3月20日 学位授与の要件 学位規則第4条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 連合農学研究科 生物生産科学専攻
学位論文題目 Degradation of Cell Wall Polysaccharides in Fruit by Infection of Aspergillus niger.
( Aspergillus niger の感染による果実細胞壁多糖類の分解 )
論文の内容の要旨

 コウジカビ病はAspergillus属菌によて引き起こされる果実の貯蔵病害の一つであり、 リンゴやモモで発生が多い。 Aspergillus属菌の中でA. nigerの作用が最も強いことが知られている。 この菌が生産する植物細胞壁分解酵素の働きによって菌糸が細胞内に侵入する。 本研究では、果実へのAspergillus属菌の感染による収穫後の損失を減らすことを目的として、 リンゴの品種、成熟段階の異なる果実、および多種類の果実を用いて、この菌の感染による軟化について、 菌が産生する酵素、細胞壁多糖類の分解の両面から解析した。 さらに、この菌の感染を抑制する物質についても検討した。

1.リンゴ果実へのA. nigerの感染
 リンゴ'紅玉'、'Starking Delicious '、'ふじ'について、未熟果、成熟果、完熟果に A. niger 3075の胞子懸濁液を接種した。 培養後、果実の感染部位では褐変と軟化の2つの症状が発現した。 'Starking Delicious'では完熟期の果実で褐変(軟化)部位の面積が未熟果や成熟果より大きく、 蜜入り果では小さかった。

2.A. niger由来の細胞壁分解酵素と果肉の軟化
 果肉の軟化に関与する酵素として、A. niger 3075の培養液からpolygalacturonase(PG)、 pectinesterase(PE)、galactosidase(GALase)、arabinosidase(ARAase)の活性が検出された。 これらの酵素を分別したところ、PGには4種、PEには3種、GALaseには4種、ARAaseには2種のisozymeが検出された。 PGのisozymeの中でPGⅣが軟化を引き起こす力が最も強かった。 GALaseⅡとARAaseⅣは単独では軟化を引き起こす効果が認められなかったが、 PGⅣと混合することによって軟化を促進し、ARAaseの添加効果がGALaseより大きかった。 この結果から, ARAaseやGALaseはPGの働きを助長する作用があると考えられた。

3.リンゴの蜜入り果におけるsorbitolによる病徴の抑制
 ‘Starking Delicious'の蜜入り果に本菌を接種したところ、蜜なし果よりも病徴面積が小さく、 菌が生産したpectinaseによる果肉の軟化速度も遅かった。 蜜入り果に多く含まれるsorbitolが菌由来のPEとGALase活性を抑制した。 これらの結果から、sorbitolにはA. nigerの感染を抑制する効果があると考えられた。

4.A.niger由来のpectinaseによる果肉の軟化に及ぼす果実の熟度の影響
 9品種のリンゴ果実の未熟果、成熟果、完熟果に本菌由来のpectinaseを作用させたところ、 ‘Starking Delicious'と‘Golden Delicious'では完熟果で軟化が早く進行した。 果実内酵素による細胞壁多糖類分解によって、菌由来の酵素が働きやすくなると考えられた。

5.A. niger由来のpectinaseによる多種類の果実の細胞壁多糖類の分解
 24種の果実の細胞壁画分に、菌由来のpectinaseを作用させたところ、リンゴ、アンズ、マンゴーなどでは 多糖類の分子量の低下の度合いが大きく、ブドウ、ビワ、キーウィーフルーツでは小さかった。 この結果から、果肉細胞壁多糖類の化学構造が果実の種によって異なることが、A. nigerに対する感受性の 差異の原因の一つと考えられた。

 本研究の結果、A. nigerに対する感受性の差異は、菌が生産する酵素、果実自身の酵素、 果実細胞壁多糖類の組成と構造、及びそれらに影響する因子の相互作用によるものと考えられた。 また,リンゴ果実では、sorbitolが菌が生産するPE及びGALase活性を減少させることによって 感染抑制に働いていることが見出された。