氏 名 渡邉 学 本籍(国籍) 静岡県
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連研 第222号
学位授与年月日 平成15年3月20日 学位授与の要件 学位規則第4条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 連合農学研究科 生物生産科学専攻
学位論文題目 リンゴカラムナータイプ樹の生育と内生生長調節物質に関する研究
(Studies on growth and endogenous plant growth regulators in columnar type apple tree)
論文の内容の要旨

 カラムナータイプのリンゴ樹とは、カナダでリンゴ‘McIntosh’(日本名‘旭’)の枝変わり として発見された‘Wijcik’、およびその後代種の総称で、短い節間の主幹上に短果枝が密集し、その頂芽に花芽が 分化する極コンパクト性の円筒状の樹形を示すのが特徴で、その形質が優性遺伝することから育種素材として注目されて いる。しかし、わが国では、本タイプ樹に関する研究は未着手である。そこで、本研究では、カラムナータイプ樹に関する 基礎的資料を得るために、生育特性および内生生長調節物質の動態との関係について検討した。
 1.生育特性について
カラムナータイプ樹およびノーマルタイプ樹の新梢生長を部位別に経時的に測定した。2年生‘Trajan’の新梢伸長は 成木‘ふじ’のそれと異なり、6月中旬に停滞した後、再び生長し、10月上旬まで継続した。この傾向は腋芽よりも 頂芽で強く、カラムナータイプ樹の生育特性と頂芽優勢性との関係が示唆された。また、成木‘Tuscan’の新梢においても、 少しの二次伸長がみられ、カラムナータイプ樹は二次伸長しやすいことが認められた。この生育特性は、多くの短果枝の 生長が早期に停止した後、頂芽が同化産物の競合において最も優位になるためと推察された。
 次に、‘Trajan’および‘ふじ’の発芽直後の直立した1年生枝の先端部を切り返し、その後の生長を調査した。 無処理区およびせん定処理区において、‘Trajan’は‘ふじ’よりも腋芽の伸長を強く抑制することが認められたことから、 カラムナータイプ樹の生育特性は頂芽優勢性あるいはオーキシンと関係することが示唆された。
 2. 各種の植物調節物質の散布と新梢生長について
 種々のカラムナータイプ樹に対して植物生長調節物質を散布し、新梢生長に及ぼす影響を検討した。その結果、 カラムナータイプ樹の側枝の発生にはサイトカイニンの関与が大きいことが認められた。オーキシン剤およびオーキシン 移行阻害剤に対する生育反応は、カラムナータイプ樹とノーマルタイプ樹で異なり、両タイプ樹でオーキシン代謝能力が 異なることが示唆され、興味深い結果となった。枝の生長特性と分枝角度との関連では、カラムナータイプ樹では 直立生長する枝が多いことが、結果的にカラムナータイプ樹の生育特性を増強させていると推察された。
 3. 内生植物生長調節物質の動態と生育特性
 カラムナータイプ樹の新梢および休眠芽における内生IAAおよびサイトカイニンについてみると、発芽後のIAA含量は、 カラムナータイプ樹では腋芽よりも頂芽で高くなり、頂芽優勢性との関連を支持した。しかし、休眠芽におけるIAA含量と カラムナータイプ樹の生育特性との関係は判然としなかった。
 サイトカイニンは、Z(zeatin)、ZR(ribosylzeatin)、iAde(isopentenyl adenine)およびiAdo (isopentenyl adenosine)について分別定量した。発芽後のサイトカイニン、特にZR含量は、‘旭’ よりもカラムナータイプ樹で、また、腋芽よりも頂芽で高かった。さらに、生育期および休眠期においても カラムナータイプ樹で高くなった。これらの結果から、カラムナータイプ樹の生育特性にはサイトカイニンの関与が 大きいことが推察された。また、両タイプ間でオーキシンとサイトカイニンの相互作用が異なり、カラムナータイプ樹に おけるサイトカイニンの生合成および代謝が、ノーマルタイプ樹と異なることが示唆された。
 4. 培地の植物生長調節物質濃度と培養体のシュート生長
 カラムナータイプ樹の培養体の生長に対するサイトカイニンまたはオーキシンの影響を調査した。高濃度のBA添加による 生長への影響は、‘旭’よりも‘Wijcik’で小さく、‘Wijcik’のBAに対する耐性が高いことが認められた。ZR添加培地では、 ‘Wijcik’は多くのシュートを分化したが、それらはほとんど伸長せず、ほ場における生育特性と共通する生長を示した。 これは、カラムナータイプ樹の生育特性にZRが関与することをin vitroでも認められたことを示している。
 高濃度のIAA添加培地では、生育の抑制は‘Wijcik’よりも‘旭’で大きく、‘Wijcik’は‘旭’よりもIAAを代謝する能力が 高いことが推察された。また、生育に適したそれぞれのオーキシン濃度は、タイプ間で異なり、オーキシン要求量も‘旭’と ‘Wijcik’で異なることが考えられた。
 BAおよびNAAを種々の濃度で添加した培地で生長させた植物体中の内生オーキシンおよびサイトカイニン含量を測定した結果、 ‘Wijcik’は全サイトカイニン含量が2倍以上増加しても生長していることから、BAに対して耐性が高いというこれまでの仮説を 支持する結果が得られた。また、‘Wijcik’は‘旭’よりもBAからiAde様サイトカイニンへの転換が起こりやすいことが 示唆された。一方、内生オーキシン含量の分析からは生育との明確な関連は見いだせられなかったが、‘Wijcik’よりも ‘旭’で過剰なNAAを代謝する能力が高いことが示唆された。
 以上の結果から、カラムナータイプ樹は頂芽優勢性が強く、直立生長を示すため、その生育特性がさらに増強されていると 考えられた。また、その生育特性と内生生育調節物質との関係では、発芽時は頂芽および腋芽におけるオーキシンおよび サイトカイニン濃度が、その後の生育期では新梢中のサイトカイニン濃度が高いことが影響していると考えられた。