氏 名 古舘 守通 本籍(国籍) 岩手県
学位の種類 博士 (工学) 学位記番号 工博 第80号
学位授与年月日 平成15年3月20日 学位授与の要件 学位規則第4条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 工学研究科 電子情報工学専攻
学位論文題目 地形図画像からの数値標高モデルの作成とその応用に関する研究
論文の内容の要旨

 地理情報は,地球上における山川・海陸・気候・生物・人口・都市・産業・交通・政治・文化などの状態に関する多様な空間的データの集合である. 最近は,これらのデータをディジタル化してコンピュータに蓄積・管理することで,地理情報の多角的な利用が可能になっている. これを実現するのが地理情報システム(GIS:Geographic Information System)である. このGISの構築と高度利用化を一層促進する上で,三次元地形データとしての数値標高モデル (DEM : Digital Elevation Model)の体系的整備が強く要求されている. 現在,我が国で入手可能なDEMは国土地理院が発行する数値地図であるが,空間分解能が50mメッシュに留まっており,応用分野によっては必ずしも十分であるとは言えない. これに対して,縮尺1/25,000または1/50,000の地形図が広く市販されており,これら地形図から等高線情報を画像処理技術によって抽出し, それに基づいて数mメッシュレベルのDEMが生成できるとしたら,その波及効果は極めて大きいと言える. 本論文では,地形図画像から高分解能DEMを自動生成する計算機システムの開発に当たって, 抽出された等高線データからラスタデータであるDEMを高精度に生成する手法について総合的に検討したものである.

 第1章では,序論として本研究の背景とその研究目的について述べるとともに,DEM生成法を大別して3種類のタイプに区分している.

 第2章では,地形図から等高線データを抽出する画像処理手順について述べている. 特に,地形図入力,色情報に着目した等高線の抽出,等高線のラベリングと細線化,雑音成分の除去, 拡張ボロノイ線図を用いた断線等高線の接続復元,等高線への標高値自動付与,について説明した.

 第3章では,標高値が付与された等高線データからDEMを生成するタイプ1の手法について述べている. 特に,DEM生成手法を1次元補間による方法と2次元補間による方法とに区分して説明し, 次に,それらの補間性能を評価実験に基づいて明らかにしている.検討対象としたDEM生成法には代表的と考えられる手法を選んだ. 具体的には,1次元補間による方法として1)直線3次スプライン補間,2)Akimaの補間,3)稲葉の補間を選び,2次元補間による方法として4)3次曲面当てはめ,5)モルフォロジー補間を選んだ. 定量的な評価を実現するために,等高線画素上で標高値の精度検証を行うという評価方式を新たに提案した. 評価実験の結果,上記のいずれの方法も生成したDEMに何らかの不自然な地形(瘤や凹み,線状のノイズ等)を発生させており, この意味で決定的なDEM生成法が未だ存在していないという結果を得た.

 第4章では,従来のDEM生成法には決定的なものが未だないという第3章の結果を踏まえて, 滑らかなDEM表面を生成できる実用的なタイプ1のDEM生成手法として,新たに単調関数補間法を提案している. 単調関数補間は,降水が斜面を流れるときの流線方向に沿って単調関数を組み合わせて滑らかに補間を行うので, 第3章で述べた補間法に比べて線状の凹凸を生じにくいと言う特徴を有している. 評価実験によって,単調関数補間におけるこの特徴を確認するとともに,補間性能についても極めて良好な補間精度が得られることを確認した.

 第5章では,DEM表面に存在する細かな凹凸を除去して滑らかなDEMを得る後処理法について論じている. 第4章の単調関数補間で生成したDEMには第3章のDEM生成手法のような線状ノイズは生じないが,尾根部や流線に直交する方向に細かな凹凸が生じる. そこで,この凹凸を平滑化により除去する方法を検討した. 平滑化手法としては,単純平滑化法,Grimsonの正則化法,筆者らの考案になる拡張型Grimson法を選択し, これらに対して評価実験を行った(後者の2つはタイプ3のDEM生成手法に属する). その結果,提案する拡張型Grimson法が最も効果的な平滑化法であるという結論を得た.

 第6章では,標高値が格子状に付与されているデータ(節点データ)からさらに詳細なDEMを生成するタイプ2の手法について検討している. 検討対象としたDEM生成法には代表的と考えられる手法を選んだ. 具体的には,1次元補間による方法として1)線形補間,2)直線3次スプライン補間,3)Akima補間を選び,2次元補間による方法として4)平面3次スプライン補間,5)FFT補間を選んだ. 評価実験の結果,処理時間が短く全体的に誤差が小さいという点で,直線3次スプライン補間とAkima補間が推奨できる手法であるという結果を得た.

 第7章では,本研究の結論として,研究のまとめと今後の課題について述べている.