近年，映像合成技術とCG映像生成技術の発達により実写映像とCG映像との違和感のない合成が可能となり， 映像コンテンツにおけるCG映像の割合は年々高まっている． そのため，自然界に存在するさまざまな物体や現象をリアルに表現するCG技術はますます重要なテーマとなっている． 特に複数の自然現象が重なり合う天候のCG表現技術は，困難な課題を数多く含む魅力的なテーマである．

　本論文では，天候景観映像生成のための稲妻の３次元CG手法を提案する． 稲妻については，これまで気象学的，電気工学的な見地からさまざまな研究が行われているが，映像表現のためのものではない． 映像表現技術に関する従来の稲妻の研究は，主に確率的，統計的手法によって稲妻の形状生成を行うものであり， 自然界における稲妻の形状を決定する要因，すなわち，雷雲によって生成される電界や地形による影響を考慮しておらず， 常に同じような形状の稲妻しか生成できない．また，実際の稲妻では雲内部や雲と雲の間にも発生しているが， これらについても考慮されておらず，表現力に乏しい．実際の稲妻現象では，雲の内部が帯電し，それに伴い地表も静電誘導で帯電する． これらによる電界の影響を受け，階段状先駆と呼ばれる放電路が伝わり，それが雲-地上や雲の間で短絡すると，雷撃が発生し稲妻として観察される．

　本研究では，与えられた雲の形状から，雲内部の帯電をシミュレートし，雲内部と地上部に点電荷を定義する． さらに，これらの点電荷より電位空間を生成し，階段状先駆のシミュレーションを行うことにより稲妻パターンを自動生成する． このため，雲や地形の影響を考慮した稲妻形状が生成され，雲底と地表の間だけでなく， 雲内部や雲と雲の間に発生する稲妻も表現することができる． 稲妻のレンダリングには，雲外放電にはボリュームレンダリング法を，雲内放電には一次散乱を考慮したボリュームレンダリング法を用いている．

　本論文では，これらの手法について詳細に述べ，さらにこれらの手法により， 稲妻形状生成のリアルなアニメーションを生成することが可能であることを示している．