氏 名 | 高橋 強 | 本籍(国籍) | 岩手県 |
学位の種類 | 博士 (工学) | 学位記番号 | 工博 第78号 |
学位授与年月日 | 平成15年3月20日 | 学位授与の要件 | 学位規則第4条第1項該当 課程博士 |
研究科及び専攻 | 工学研究科 電子情報工学専攻 | ||
学位論文題目 | 分散演算を用いた適応フィルタの構成に関する研究 | ||
論文の内容の要旨 | |||
近年の高速ディジタル通信網の整備と高速移動体通信の進展を背景に,適応フィルタに対する高速化,高精度化, 小規模化,低消費電力化への要求が高まっている. 特に,携帯性やバッテリでの動作可能時間が重要になる移動形携帯端末においては,ハードウエア規模や消費電力を小さく抑えることが望まれる. 適応フィルタを実現する際に要求される性能としては, 低消費電力,小規模ハードウエアを実現するために乗算器を使用しない,いわゆるマルチプライヤレスな構成法が提案されている. Cowanらは,分散演算をLMSアルゴリズムに適用した分散演算形LMS適応アルゴリズムを導出して適応フィルタに応用した. しかし,この適応フィルタの収束速度と推定精度が極端に劣化することが明らかになった. また,アルゴリズムに対する収束条件などの理論的な解析は行われておらず,実現を前提とした効果的なアーキテクチャも検討されていない. そこで,2の補数形式に基づく分散演算をLMSアルゴリズムに適用した分散演算形LMS適応アルゴリズムを導出し, このアルゴリズムを用いた適応フィルタの効果的VLSIアーキテクチャを提案した. さらに,高性能化を図る目的でマルチメモリブロック構成,ハーフメモリアルゴリズムを適用し,これらに対しても効果的なVLSIアーキテクチャを提案した. 次いで,分散演算形LMS適応アルゴリズムの収束条件を理論的に明らかにするとともに,提案法の有効性とCowanらの収束速度が劣化する原因について言及した. 最後に,高速化を目的としてブロックLMSアルゴリズムに分散演算を適用した分散演算形ブロックLMS適応アルゴリズムを導出し, このアルゴリズムを用いた適応フィルタの効果的なVLSIアーキテクチャを提案した. この際,高速なアーキテクチャを実現するために,パイプライン処理に適した新たな更新方法であるプライオリティ・アップデートを提案した. 本論文は,以下に示す7章から構成されている. 第1章は,緒言であり,本論文の背景と目的,概要について述べた. 第2章では,適応フィルタに対する代表的な問題であるシステム同定について述べ,いくつかの具体的な応用例について解説した. 次いで,システム同定における問題設定を行い,評価量について定義した.最後に,本論文で用いるLMSアルゴリズムについて述べた. 第3章では,分散演算形LMS適応フィルタについて述べた. まず,2の補数形式に基づく分散演算形LMS適応アルゴリズムを導出するとともに, 従来のオフセットバイナリ形式に基づく分散演算形LMSアルゴリズムの導出過程もあわせて示し,従来法の問題点について言及した. さらに,提案する分散演算形LMSアルゴリズムにマルチメモリブロック構成を適用した. そして,計算機シミュレーションにより収束特性を評価した. 最後に,提案するアルゴリズムを用いた適応フィルタの効果的な構成法を示し,VLSI評価を行った. 第4章では,ハーフメモリアルゴリズムについて述べた. まず,提案する2の補数形式を用いた分散演算形LMSアルゴリズムにおいても,適応関数空間に準奇対称性が現れることを解析的に示し, この性質を利用したハーフメモリアルゴリズムを導出した.次いで,計算機シミュレーションにより収束特性を評価した. 最後に,ハーフメモリアルゴリズムに基づく適応フィルタの効果的な構成法を示してVLSI評価を行った. 第5章では,分散演算形LMSアルゴリズムの収束条件を解析的に示した. 収束条件式を導くために更新式を全適応関数空間に拡張し,これを用いて適応関数空間推定誤差の更新式,すなわち収束条件式を定義した. そして,収束条件を適応関数空間推定誤差が時刻の経過とともに減少するための条件として導いた. 最後に,従来のアルゴリズムの収束特性が大幅に劣化すること,そして提案法の収束速度が良好であることを示すために,自己相関行列の固有値を解析的に求めた. 第6章では,高速化を図る目的でブロックLMSアルゴリズムに分散演算を適用した分散演算形ブロックLMS適応アルゴリズムと, そのマルチメモリブロック構造に対するアルゴリズムを導出した. ところが,導出したアルゴリズムはその複雑さからパイプライン処理が困難であるため, パイプライン処理に適した新たな更新方法であるプライオリティ・アップデートを提案した. そして,計算機シミュレーションにより収束特性を評価し,さらに効果的なVLSIアーキテクチャを提案した.第7章は結言であり,本論文をまとめるとともに,今後に残された課題について述べた. |