氏 名 小笠原 祐治 本籍(国籍) 岩手県
学位の種類 博士 (工学) 学位記番号 工博 第77号
学位授与年月日 平成15年3月20日 学位授与の要件 学位規則第4条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 工学研究科 電子情報工学専攻
学位論文題目 生育環境を考慮した苔景観のビジュアルシミュレーションに関する研究
論文の内容の要旨

 自然景観を構成するさまざまな物体や現象をリアルに表現するCG技術の開発がますます重要なテーマとなってきている. 苔は日本庭園では欠くことのできない構成素材の一つであり,地面や燈籠などの石材物に苔が繁殖している様子は,風情のある印象を与える. 本論文では,苔の生育環境を考慮して自然に繁殖している状況を表現することを目的とした苔景観のビジュアルシミュレーション法について提案する.

 苔景観の生成技術の開発が持つ技術的な意義としては,以下のことが挙げられる.
 (1)植物の植生の自動生成に関する研究の端緒となる.
 (2)高品質な質感表現のための技術の開発につながる.

 苔は一般の植物とは異なり根から栄養や水分を吸収するのではなく,体全体で水を吸収して光合成で生育する. 苔の生長には,適度な受光量と水量が必要である.苔は環境に敏感な植物であり,池や小川などの水辺, 建物や植物などに囲まれた風通しの悪い場所によく繁殖する. このような自然な繁殖の景観シミュレーションを実現するために,以下の方法を提案する.
 (1)苔の繁殖モデル
 (2)生育対象における生育環境シミュレーション法
 (3)周囲環境を考慮した生育環境シミュレーション法
 (4)レンダリングの高速化法

 本文では,まず,苔の生態について述べる.
 (1)の苔の繁殖モデルについては,苔が生育している生育環境(日射量,気温,湿度)に対してどの程度適応できるかを示す環境適応度を定義し, 環境適応度にもとづいて発芽,成長,死滅,有性繁殖および無性繁殖の制御を行う方法を示す.
 (2)の生育対象における生育環境シミュレーション法については,生育対象表面における熱エネルギーと水の関係について明らかにし, (1)で使用する生育環境(日射量,気温,湿度)を求める方法について示す.また,本方法を用いた苔の繁殖シミュレーション例を示す.
 (3)周囲環境を考慮した生育環境シミュレーション法については,生育対象周辺の風の流れを粒子法でシミュレーションし,水辺や地形, 周囲の物体の影響を苔の繁殖に反映する方法を示す.生育対象に到達するまでの風の温度,湿度,風速,風向の変化を求め, (2)と組み合わせて(1)で使用する生育環境を求めることにより,周囲の状況による影響を反映する. また,周囲の状況による影響をシミュレーション例で示す.
 (4)レンダリングの高速化法については,アニメーションを作成することを想定して, 苔の形状データであるボリュームデータのレンダリングにおける高速化の手法を示す.

 最後に,本手法の特徴をまとめ,残された課題について述べる.