氏 名 李 尚学 本籍(国籍) 韓国
学位の種類 博士 (工学) 学位記番号 工博 第72号
学位授与年月日 平成15年3月20日 学位授与の要件 学位規則第4条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 工学研究科 物質工学専攻
学位論文題目 片状黒鉛鋳鉄の性状と機械的性質に及ぼす希土類元素硫化物の影響
論文の内容の要旨

 希土類元素は硫黄との親和力が極めて強い元素であり、溶腸中で硫化物を形成しやすい。 今まで片状黒鉛鋳鉄溶腸に、元湯のS量とRE量が化学量論的に最適になるようにREを添加すると黒鉛化が著しく促進し、 チル化傾向が大幅に低減することが報告されている。この理由の一つとしてREの硫化物が凝固時に黒鉛晶出の下地となり、 黒鉛組織の改善、チル化が低減するためであると考えている。しかし、REも過剰に添加された場合、すなわちREとSとの添加量の比が合わないと、 むしろREによる溶腸の性質に悪影響を及ぼす恐れがある。

 この点から希土類元素と硫黄量比を変えることによって黒鉛形態の変化、機械的性質に及ぼす影響を調べることと、 さらに硫化物について定量、定性分析を行って希土類元素と硫黄との化学量論比を調べることのは極めて重要である。

 本論文では、RE量とS量との比による黒鉛化の影響を調べるため、S量の異なる片状黒鉛鋳鉄溶腸にミッシュメタルを添加し組織と黒鉛形状、 チル深さ、共晶温度に及ぼすRE量とS量との比の影響について調べることと、さらにRE/Sによる機械的性質の変化、 REを添加した溶腸のフェーディング特性、REを添加した溶腸の流動性、またREの硫化物について調査することを目的とした。

 片状黒鉛鋳鉄の組織に及ぼす希土類元素/硫黄比の影響をRE量と元湯のS量を変えながら調べてみた結果では、 黒鉛形態に対しては高純度銑鉄を用いた場合は、RE/S=0~1.25の範囲ではA+D型黒鉛、RE/S=1.25~5.0ではA型黒鉛、 RE/S=5.0以上では全チル組織になり、普通銑鉄を用いた場合は、RE/S=0~2.5の範囲ではA+D+(B)型黒鉛、RE/S=2.5~5.0ではA型黒鉛、 RE/S=5.0以上では高純度銑鉄の場合と同じようにチル組織ことを示した。また過冷度が3K以下ではA型黒鉛が、 3K~6Kの間であった場合はA+D型黒鉛が晶出しRE/Sの比は2.5前後で良好なA型黒鉛が得られたことを明らかにした。

 RE/S比による機械的性質の変化について調べた結果、RE/S=2.5前後で共晶セル数がもっとも多くなり、 また引張強さおよびプリネル強さもRE/S=2.5付近で高い値になることを明らかにした。

 RE/S比が化学量論的になった場合の流動性と溶腸の流動停止機構について考察をした結果、 初晶デンドライトとRE添加物による先端部での固液共存状態による凝固停止が流動性に関係あることを明らかにした。

 溶腸保持時間によるRE硫化物による黒鉛化の変化と硫化物形態の変化を高周波誘導路で保持した場合と電気炉で保持した場合の結果を比べて検討した結果、 RE添加直後の溶腸の引張強さは最大で、溶腸保持時間増加とともに引張強さは減少した。 これは溶腸中の硫化物(RE, Mn)Sのよる黒鉛化によるものであること、またシリコニット電気炉で30分保持した溶腸では、 (RE、Mn)Sの複合硫化物は減少し、化合物の中心がRE硫化物で、外側はMnSになっている化合物なり、これらの硫化物と黒鉛化の関係を明らかにした。

 さらに片状黒鉛鋳鉄に存在するRE硫化物の形態を調べて、さらにその硫化物の結晶学的性質及びRE硫化物による黒鉛生成機構を検討した結果、 RE添加片状黒鉛鋳鉄の硫化物は3つに分類でき、それは(RE, Mn)S複合化合物 : 球型、RES+MnSの分離した形態 : RES(中心部 : 楕円型)MnS(外側 : 多角形)とMnS : 多角形である。そして(RE, Mn)S複合化合物は強力な黒鉛の核として作用すること、 さらにRES+MnSの分離した形態とること、また、MnS単独の場合は基地組織中で介在物として存在し、黒鉛核としての作用はしないことを明らかにした。

 本研究によりRE量とS量との比による片状黒鉛鋳鉄の性状と機械的性質を調べた結果、 RE/Sの比が化学量論的な値になる2.5付近で好なA型黒鉛が得られ、機械的性質も良好になるという有益な知見を得たことにより、 自動車部品等の鋳鉄材料への展開が計られ、実用化が期待できる。