氏 名 長洞 記嘉 本籍(国籍) 岩手県
学位の種類 博士 (工学) 学位記番号 工博 第70号
学位授与年月日 平成15年3月20日 学位授与の要件 学位規則第4条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 工学研究科 物質工学専攻
学位論文題目 新規含カルコゲン複素環化合物の合成とその酸化還元挙動に関する研究
論文の内容の要旨

 近年有機共役π電子系の化学において、 特異な構造や物性を有する化合物群の合成および新規な物性機能の発現が注目を浴びている。これらの研究の中核は、 既存のπ電子系の拡張による、新しい構造体の構築、その特異な物性の発現という学術的側面はもちろんのこと、 新規な導電性有機材料や機能性色素・光応答性分子開発という実用的見地からも重要視されている。 これらは、現在も広く用いられている無機材料に代わる次世代の機能性材料であり、性質の細かな調整が可能である。 機能性の発現が期待される有機導電性化合物の研究は数多く報告されているが、 その中でも電子移動素過程に関するモデル系構築に着目した研究例は少なく、未解決課題も多い。 従って、構造と物性の相関が理解しやすいモデルに関する研究が急務である。

 このような背景のもとに本論文は、 16族カルコゲン元素を含む有機複素環分子群の合成経路の確率と構造決定そして電子移動により発生する準安定π電子系骨格の創成、 さらにその電気化学的特性の評価に関して述べている。

 第1章では、社会的な養成を含む研究の背景と目的について述べている。

 第2章では、単電子酸化還元システムの構築を目的として、 ベンゼン環上にイソプロピルおよびメトキシ基の双方の置換基を併せ持つベンゾトリカルコゲノール類を合成し、 このベンゾトリカルコゲノール類の一電子酸化反応により発生する新規な7π電子系化合物の特性の解明し、 一電子還元反応による中性分子への再変換について述べている。

 第3章では多電子酸化還元システムの構築に関して検討し、 フェロセン1,2-ジチオールから構成される新規な複素環化合物の合成経路を見いだし、これらの構造決定と酸化還元挙動を観測した。 ビフェロセノ1,2-ジチイン類の合成経路の確立に成功し結晶構造も明らかにしている。次に酸化還元特性を調査し、 分子内の二つのフェロセン部位はそれぞれ独立した2電子可逆酸化還元挙動を示し、これらユニット間の電子相互作用が明らかになった。 次に、有機ジチインユニットでは段階的な2電子酸化が進行する多電子多段階酸化還元特性を明らかにしている。 2,5-ジフェロセニルチオフェンおよび2-[b]チオフェンにおけるチオフェンアニオンラジカル種の発生について、 密度汎関数法を用いた電子構造からの分子設計に基づき、準安定7π電子構造の特異な安定化の要因を明らかにした。 合成したこれらの化合物の酸化還元挙動を評価し、フェロセンユニットは段階的な2電子可逆酸化還元波を与え、 ユニット間の電子相互作用が存在することを見い出した。さらに、チオフェンユニットに由来する還元波も共に観測され、室温、溶液中、 そのアニオンラジカル種の発生を確認した。これにより電子ドナーおよびアクセプターユニットを併せ持つ分子設計と簡便合成に成功し、 その特性を明らかにした。

 第4章では、本研究の結果と考察を各章ごとに要約し、その成果と今後の展望について述べている。