氏 名 GONG PENG
 蓬
本籍(国籍) 中国
学位の種類 博士 (工学) 学位記番号 工博 第69号
学位授与年月日 平成15年3月20日 学位授与の要件 学位規則第4条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 工学研究科 物質工学専攻
学位論文題目 有機めっき処理金属とゴムとの直接架橋接着に関する研究
論文の内容の要旨

 ゴムと金属との複合化技術として接着があげられますが、その大半は接着剤を用いる間接架橋接着法です。 しかし、それは塗布技術、生産性などの問題を抱えています。そこで、接着剤を使用しない直接架橋接着技術の開発が重要です。 我々はトリアジンチオール化合物(RTDN)による有機めっき処理した金属とゴムとの直接架橋接着技術を提案しました。

 有機めっきとは、RTDNの電解重合反応を利用し、金属表面上に機能性トリアジンチオールポリマー被膜を形成する方法です。 現在、有機めっき技術は金型への雛型付与技術や金属の防食技術、さらに金属と高分子材料の直接接着法など広い分野に応用されています。

 本研究では、RTDNをモノマーとして、有機めっき処理により金属表面上に反応性を持つ三次元化のトリアジンチオール被膜を形成し、 また、この有機めっき処理した金属とゴムとの直接架橋接着という新たな直接架橋接着技術を研究することを目的としている。

 本研究の概要は以下に示すとおりである。

 1)6-ジアリルアミノ-1,3,5-トリアジン-2,4,-ジチオールモノナトリウム塩(DAN)有機めっき処理したステンレス鋼板(SUS304) とアクリルゴム(ACM)との直接架橋接着性について、次の結果を得た : 有機めっきにおいて、 反応性基を有する三次元化したトリアジンチオール被膜を金属表面上に形成させることができる ; 接着物のはく離強度は有機めっき被膜の厚さに依存し、膜厚が約25mm以上になると、はく離強度はゴム凝集破壊あるいはゴム層破断するほど高くなる ; ゴム架橋剤の配合量が増加すると共に、接着物のはく離強度は次第に減少するが、直接架橋接着物はゴム凝集破壊あるいはゴム層破断するほど高いはく離強度が得られる ; 接着物のはく離強度に及ぼすゴムの架橋温度と架橋時間の影響は小さい ; 接着物の耐水性は良好であり、耐熱性と耐油性は非常に優れている。

2)有機めっき処理条件が及ぼすマグネシウム合金(AZ91D)とACMとの直接架橋接着性への影響を検討した結果、以下のことがわかった : DAN/NaOHの水溶液中での有機めっきにより、AZ91D表面においてアノード酸化物の形成の一方で、RTDN被膜を形成することができる ; 有機めっき溶液中のNaOH濃度が増加すると共に、有機めっき被膜中において、RTDN成分は次第に減少し、アノード酸化物成分は次第に増大する。 これに対して、接着物のはく離強度は次第に弱くなる。また、NaOH濃度が100mM以下では有機めっき処理の際に、 AZ91の溶液-空気界面はよく腐食される ; DAN-低濃度のNaOH水溶液中にNa2CO3を添加すると、界面の腐食が発生せず良好な被膜が形成できる。 また、Na2CO3濃度が増加すると、有機めっき被膜中において、アノード酸化物成分に対するトリアジンチオール成分の含有量比は次第に増大し、 得られた接着物のはく離強度も次第に増大する ; AZ91の有機めっきにおいて、最適な電流密度、処理時間および処理温度が存在する。

 3)RTDNの種類に関わらず、有機めっき処理により、 SUS304 BA表面上においてS-S結合を有するトリアジンチオールポリマーで構成される被膜が形成できる被膜中のトリアジン環および置換基は基板に対して垂直方向に配行している ; 有機めっき処理によりチオール基はSUS304 BAとの界面においてFeあるいはCrなどとメルカプチドを形成し、 S-FeあるいはS-Cr化学結合により有機めっき被膜と金属基板は強く結合している ; 良好な直接架橋接着性を得るための有機めっき薄膜の構造としては、有機めっき被膜と金属基板が界面化学結合していること、 有機めっき被膜とゴムが界面化学結合していること、および十分な被膜凝集強度を保持していることの三条件が必要である。

 4)DAN水溶液中に有機めっき処理したスチールと過酸化物架橋系EPDMとの直接架橋接着性を検討し、以下の結果を得た : 良好な直接架橋接着性を得るために、最適な有機めっき被膜の厚さが必要である。接着物のはく離強度はゴム補強剤(HAF)、 軟化剤(プロセスオイル)および架橋剤(DCP)の三因子に影響をうける。これらの因子の配合量は強い相関関係を示しており、 良好な接着性を得るために、それぞれ最適な配合量が必要である。接着物の耐熱性、耐水性および耐湿熱性は非常に優れている。

 5)DAN水溶液中で有機めっき処理したSPCCスチールとSRH系を配合した硫黄加硫NBRとの直接架硫接着性を検討し、以下の結果を得た : ゴムにシリカ、レゾルシノール、メラミンというSRH系を配合することが直接加硫接着性に有効である ; 良好な直接加硫接着性を得るために、最適な有機めっき被膜の厚さが必要である ; 加硫促進剤の種類および硫黄と加硫促進時の比率に関わらず、SRH系を配合した硫黄加硫系NBRと有機めっき処理スチールとは良好な直接加硫接着性を示している。