氏   名
こあぜ ひろし
小疇 浩
本籍(国籍)
神奈川県
学位の種類
博士(農学)
学位記番号
連論 第70号
学位授与年月日
平成 14年 9月 13日
学位授与の要件
学位規則第4条第2項該当 論文博士
学位論文題目
Studies on Quality Changes of Macadamia Nuts during Kernel Development and Postharvest Processing
( マカダミアナッツの生長中および収穫後の加工における品質変化に関する研究 )
論文の内容の要旨

 マカダミアナッツは、オーストラリアが原産で、ハワイとカリフォルニアを中心とした アメリカおよびオーストラリアで多く生産されているが、近年、アフリカの東部・中部を中心とした諸国や コスタリカのような発展途上国でも生産が伸びている。 この理由として、マカダミアナッツの加工が労働集中型であるため、人件費が低く、 温暖な気候の国々へその生産が移っていったことが考えられる。 途上国の一つであるケニアでは、これまでに科学的な研究成果がなく、生産および加工中に高い損失が生じている。 本研究は、ケニア産マカダミアナッツの品質特性を検討し、その品質向上と収穫後損失の低下を目的として行われた。 研究の成果は以下のように要約される。

 1.マカダミアナッツの生長中の品質変化を調べ、加工に適した熟度の検討が行われた。 殻の大きさや殻つきナッツの質量は、生長段階の異なる試料間に有意な差は認められなかったが、 開花後3ヶ月の試料では、それ以前の試料に比べ、顕著に高い含水率と低い全脂質含量が確認された(P<0.05)。 主要な中性脂質画分はトリアシルグリセロールであり、極性脂質画分はホスファチジル・コリン、 ホスファチジル・エタノールアミンで、3ヶ月以降に顕著な変化がみられた。 全脂質の脂肪酸組成では、3ヶ月試料で有意に高い含量のミリスチン酸、パルミチン酸、 リノール酸が検出され(P<0.05)、ステアリン酸、オレイン酸の含量は生長と共に増加した。 不飽和・飽和脂肪酸含量比は、生長と共に4.3から6.7へと増加した。 これは、生長中の主にオレイン酸の増加に起因するものと考えられる。

 2.マカダミアナッツは通年の生産が可能であるが、生産最盛期前後のナッツの品質変化および規格外の ナッツと合格品との品質の差異について検討した。 格外品の含水率は合格品のそれよりも有意に高く(P<0.05)、全脂質含量は逆に合格品が高く、 収穫時期が進むにつれて増加する傾向にあった(P<0.05)。 格外品のスクロース含量は、合格品に比べて高く(P<0.05)、フルクトースやグルコースでも同様の傾向が認められた。 主要な中性脂質はトリアシルグリセロールで、全体の73%以上を占めたが、格外品の含量は最も低かった。 全脂質の主要構成脂肪酸は、モノエン酸のオレイン酸とパルミトオレイン酸であるのが確認された。 格外品は、より多くの飽和脂肪酸を含有し、合格品との間に有意差が認められた(P<0.05)。

 3.ナッツ加工の重要な工程である乾燥中に、脂質含量の高いナッツは品質の低下が予想されるので、 薄層乾燥実験による乾燥速度定数の決定、乾燥前後の品質の比較検討を行った。 乾燥速度定数は、マカダミアナッツでの実験式であるPalipane式とPage式が高い寄与率をもたらしたが、 理論式である拡散式や指数式では、余り高い結果は得られなかった。 乾燥工程中の品質変化に関して、統計的に顕著な差は認められなかったが、高温乾燥では最終到達含水率が高く、 また、還元糖の僅かな増加がみられた。これは、乾燥工程後に行われるロースト中に、 マカダミアナッツが褐変を生じる可能性を示唆している。

 4.ナッツの加工における加熱工程は、最終製品の保存性を延ばすのみならず、 その特徴的なフレーバーや味を醸しだすのにも重要な役割を果たしている。 しかし、マカダミアナッツやカシュウナッツのような脂質を主要成分とするナッツでは、 加熱処理の影響が懸念されるので、各脂質画分とその脂肪酸組成の加熱加工中の変化について検討した。 完全に成熟したナッツを用い、安全含水率1.5%(w.b.)程度まで乾燥した後、ローストしたナッツでは、 これらの脂質画分や脂肪酸組成への影響は認められなかった。 したがって、独特の味やフレーバーを醸し出すために、脂肪の果たす役割はかなり低いと思われた。

 5.外観的特長である直径、重量、色および色差と品質指標としての含水率と全脂質含量を用いて、 非破壊による品質判定法を検討した。殻の色によるナッツ果実の品質推定は不可能であったが、 近赤外線をナッツに直接照射することで、含水率との高い相関推定値が得られた。 今後、当該分野で研究進展の可能性を示唆した。