氏   名
ほりぐち けんいち
堀口 健一
本籍(国籍)
山形県
学位の種類
博士(農学)
学位記番号
連論 第68号
学位授与年月日
平成 14年 9月 13日
学位授与の要件
学位規則第4条第2項該当 論文博士
学位論文題目
第一胃刺激用具を投与した肉牛における反芻行動、第一胃性状および肥育成績に関する研究
( Studies on rumination behavior, rumen characteristic and performance in beef cattle with dosing mechanical stimulating brush )
論文の内容の要旨

 本研究では、第一胃刺激用具(RF)が有する機能が各種飼料条件下の肉牛の 反芻時間や咀嚼時間、成分消化率、第一胃内発酵性状および第一胃内容物の通過速度に及ぼす影響について調査し、 また肥育肉牛へのRFの投与が飼料の利用性、枝肉性状や枝肉脂肪の脂肪酸組成および第一胃の形態に 及ぼす影響について検討するため、一連の試験を実施した。

 まず初めに、肉牛に異なる個数および大きさのRFを投与した試験を行い、 得られたデータからRFの適切な投与条件を検討した(第1章)。 調査の結果、肉牛に対しては現在市販されている大きさのRFを3個投与することにより、 第一胃粘膜に対する物理的な刺激作用が得られ、その機能を活用することが可能であると推察された。

 次に、稲わら給与時におけるRFの機能を明らかにするため、飼料中の総繊維(細胞壁構成物質(OCW))含量を 切断長の異なる稲ワラを給与して3段階に設定した飼料条件下(飼料中のOCW含量が原物換算で25%、20%および15%) において、反芻時間、消化率、第一胃内発酵性状および第一胃内液相の通過速度について詳細に調査した(第2章)。 その結果から、切断の長さに関係なく0.8kg以上の稲ワラを給与した場合、反芻時間、消化率、 第一胃内発酵性状および第一胃内液相の通過速度に対するRF投与の影響はほとんどないことが明らかとなり、 一定量以上の稲ワラを給与する飼料条件下においては飼料中のOCW含量を低くしてもRFの第一胃に対する 物理的刺激機能が現れにくいことが示唆された。

 肥育時の肉牛にRFの機能を充分に発揮させるための飼料条件を模索するため、 異なる繊維性成分の濃厚飼料を単独給与した飼料条件下を設定し、反芻時間、第一胃内発酵性状および 第一胃内液相の通過速度に及ぼすRF投与の影響について検討した(第3章)。 調査結果より、繊維性成分が調製された濃厚飼料のみを給与した飼料条件下において、 RFは第一胃粘膜に対して物理的刺激物として作用することが推察され、1日当たりの反芻時の咀嚼時間が長くなった。 さらに、RFの投与によりプロピオン酸型の発酵が促進し、第一胃内液相の通過速度が速まる傾向を示すことが 確認された。 また、繊維性成分が少なく、粗剛性のない濃厚飼料を単独給与した肉牛へのRFの投与は、 反芻時間に与える影響が少なく、第一胃内液相の通過速度を速め、第一胃内のプロピオン酸発酵割合を 高める傾向にあることが明らかとなった。

 本研究の最終段階として、実際の肉牛を肥育したときのRF投与の影響を検討するため、 長期の肥育試験を濃厚飼料多給下の肉牛において飼料条件を変えて2回実施し、飼料の利用性、 枝肉性状や枝肉脂肪性状および第一胃の形態について詳細に検討した(第4章)。 その結果、繊維性成分を調製した濃厚飼料を多給した同一の飼料条件下では、RFの投与により、 飼料の利用性、枝肉性状および第一胃半絨毛の発達に及ぼす影響が少ないこと、 枝肉脂肪のC18:1とC18:2の不飽和脂肪酸の割合が高まることが明らかとなった。 また、繊維性成分が少ない濃厚飼料および易発酵性粗飼料を給与した飼料条件下にRFを投与した処理と RFの代わりに牧乾草を給与した処理とを比較した肥育試験では、RF投与処理が、肥育前半の飼料の利用性を 高める傾向にあること、ばらの粗脂肪含量を高める傾向にあること、 枝肉脂肪の不飽和脂肪酸の割合を増加させること、半絨毛の発達を乾草給与時と同等にすることが分かった。

 以上、本研究の主要な結果をまとめると、RFは、第一胃粘膜に対する物理的な刺激作用を有する機能が存在し、 反芻時間を長くすること、第一胃内のプロピオン酸型発酵を促進すること、第一胃内液相の通過速度を速めることが 明らかとなった。 また、これらの現象が総合的に関連して長期の肥育時では枝肉脂肪の不飽和脂肪酸の割合を高めることが確認された。 なお、RFの機能は、飼料条件により大きく左右されることも明らかとなった。