氏   名
やなわぎはら てつじ
柳原 哲治
本籍(国籍)
北海道
学位の種類
博士(農学)
学位記番号
連論 第67号
学位授与年月日
平成 14年 3月 23日
学位授与の要件
学位規則第4条第1項該当 課程博士
学位論文題目
北海道米の食味向上と用途別品質の高度化に関する研究
(Studies on Improvement of the Eating Quality and Value in Use of Hokkaido Rice)
論文の内容の要旨

 米に対する良食味指向と社会ニーズの多様化を背景として,北海道米の食味向上と 用途別品質の高度化が求められている。本研究では,北海道が進める集約的産地形成政策を基礎として, それぞれに必要となる技術的課について検討した。

 検討の前提条件として,北海道米の品質・食味現況を明らかにし,問題点とその改善目標および今後 必要な技術的課題の明確化を試みた。その結果,北海道米の食味現況は,依然として府県品種に比較して 劣っていることが明らかとなり,この要因としてアミロースと蛋白含有率,特に蛋白含有率の重要性が 増していると考えられた。そのため,両者を総合的化した食味指標値であるAPS=60を北海道米全体の 目標値とすることを提案した。また,地域間でのAPSの変動は,気象条件により概ね区分できることから, 気象安定地帯では,極良食味新品種と地帯内での食味変動解消技術の投入を図り,「大ロットで均質な 良食味米を安定的に供給しうる広域的な産地形成」の推進が有効である。また,気象不安定地帯では, 「地域の創意・工夫を生かしながら多様な需要に対応する産地形成」あるいは「もち米専作団地による 安定的・集約的な高品質もち米産地形成」を進めるための,良食味以外の新規用途の開拓と,用途別品質の 高度化技術の導入を検討する必要があると考えられた。

 良食味米生産地域内における食味の高位平準化技術として,泥炭地産米の食味向上に取り組んだ。 客土による土壌環境の変化と水稲生育,収量および養分吸収に与える影響を解析し,産米の食味特性向上 の機作を考察した。さらに,解析結果を基礎に,良食味米生産を目的とした客土を施工するための,施工 基準(要否判定・客土材の選定・量の算定,効果の持続性の検討)の策定を試みた。さらに,食味向上を 目的とした客土の施工基準について検討し,土壌中可給態窒素,可給態ケイ酸含量より客土要否判定基準 を作成した。また,粘土含量による従来の基準を見直し,可給態ケイ酸含量により新たな客土材の基準を 作成した。さらに客土効果はほぼ10年程度と考えられ,これを目安として客土の要否判定することとした。

 極良食味品種選抜に必要な評価手法の開発として,炊飯米の外観を機器測定により客観評価する方法 について検討し,画像解析を応用した機器測定の手法の開発に取り組んだ。その結果,炊飯米の白さおよび つやと密接な相関を示す画像解析特性値を設定することができ,炊飯米の外観を機器測定により客観的に 数値化することができた。さらに,測定条件に検討を加え,25gの白米試料で,1日に約100点程度の測定が 可能な測定スキームを作成することができ,育成材料の検定法として活用することも十分可能となった。

 「もち米専作団地による安定的・集約的な高品質もち米産地形成」に対する高品質化技術研究として, もち米の加工適性の向上に関する検討を行った。その結果,北海道米の加工上の問題点は,硬化速度が遅い, 膨化性が低い,白度が低いことであることが明らかとなった。そこで,もち生地硬化性の評価法の検討を行い, レオメーターを用いた測定法を考案した。さらに,簡易・微量・迅速に硬化性を推定するために,RVAによる ピーク時温度測定法の適用を検討し,1点約10分,4gの試料で精度良く硬化性を推定でき,育成材料の選抜 検定法として利用可能な測定法が開発できた。

 「地域の創意・工夫を生かしながら多様な需要に対応する産地形成」に対応した技術開発として,北海道 米の酒造適性評価について,現状の問題点と品種開発に必要な条件を明確化を試みた結果,北海道品種は東北 産酒造品種と同等の酒造適性(かけ米)があると判断されたが,今後酒造専用品種の開発に当たっては,栽培 特性など他の条件を備えた上での大粒化と,蛋白含有率の低位安定化およびPB-Ⅱ比率の低減化が課題である ことが明らかになった。

 新たな社会ニーズに対応した,新規需要開拓のための検討課題として,北海道米の低アレルゲン化に関する 技術解析をおこなった。EIAを用いた米の抗体結合活性測定法を開発し,米粒内での抗体結合活性の分布についての 検討した結果,米抗原は米粒表層に局在することが明らかとなった。このことから,臨床における高度精白米の 有効性は,米表層の原因抗原が低減されたことによる事が明らかとなった。

 本研究で取り上げた個々の研究テーマは,産地形成を推進し各生産カテゴリーに見合った新規用途の開拓と, 用途別品質の高度化方針を打ち出すための素材となるものであり,どの技術を活用するかは,各地域の実状を勘案 しながら選択されるべきものと考えられる。