氏   名
まつだ ひろゆき
松田 裕之
本籍(国籍)
山形県
学位の種類
博士(農学)
学位記番号
連論 第65号
学位授与年月日
平成 14年 3月 23日
学位授与の要件
学位規則第4条第2項該当 論文博士
学位論文題目
精米中のタンパク質含有率から見た米の食味向上に関する研究
(Study of eating quality of milled rice to search into protein content of milled rice)
論文の内容の要旨

 米の食味向上を図るためには、良食味品種の開発・導入、 食味向上理論の構築、それに基づいた栽培管理技術の実践が不可欠となる。さて、 主観的要因の大きい食味官能値を客観的に把握するために、食味官能値と米粒の 化学成分の関係について多くの研究がなされてきた。しかし、これらは食味官能値 との直接的な関係を示した者が大半を占め、栽培管理で制御できる化学成分に関する 研究や、こうした成分を制御して良食味米を生産する研究は少ない。そこで、本研究 では、人為的にコントロールしやすい化学成分であるタンパク質含有率と食味官能値 の関係を明らかにし、良食味栽培理論および管理技術を構築した。得られた結果は 下記のとおりである。

  1.  食味官能値を評価する化学成分として、精米中のタンパク質含有率が有効である。 このことは、稲体の窒素成分と食味を直接的に比較できる点から、構築した食味向上 理論を栽培にフィードバックするために都合がよい。

  2.  精米中のタンパク質含有率を制御するためには、精米中の窒素量を低下させること、 および精米一粒重を重くすることが重要である。

  3.  穂揃い期の窒素吸収量および単位面積当たり穎花数からみた穎花生産効率が高まると、 一穎花及び精米一粒に分配される窒素が制御され、精米中のタンパク質含有率は低下する。 つまり、窒素施肥に過度に依存しない管理により、品種特性に見合った適正な単位面積 当たり穎花数の確保が重要となる。

  4.  穎花生産効率が同一の場合、精米一粒重が重い試料での精米中のタンパク質含有率 が低い。つまり、精米一粒の大部分を占める炭水化物量を多くするために、幼穂形成期 以降の炭水化物生産と転流を良好にすることが重要となる。

  5.  単位面積当たり穎花数は、分化穎花数と退化穎花数の差により決定する。幼穂形成 期追肥の時期の遅れや遮光処理によって退化穎花数が多くなり、穎花生産効率が低下して 精米中のタンパク質含有率が高まる。また、遮光処理により穂揃い期の蓄積炭水化物量が 減少し、精米一粒重が低下する。

  6.  幼穂形成期の追肥窒素量の増加は、登熟期間の葉緑素計値および葉身窒素濃度を 高めるが、みかけの光合成速度は高まらない。また、登熟初期の稲体基部からの溢液速度は 明瞭な差が認められず、登熟後期には低下する。

  7. 一穂当たり穎花数に占める二次枝梗穎花の比率が高くなると、精米中のタンパク質 含有率が高く維持される。つまり、一穂当たり穎花数の多い品種では、穎花の質も精米中の タンパク質含有率を左右する要因となる。

  8. 上記結果を基にした良食味理論の構築とその実践により、山形県庄内地域での水稲品種 「はえぬき」で食味向上が実証された