氏   名
わん めい
王 Mei
本籍(国籍)
中国
学位の種類
博士(農学)
学位記番号
連研 第220号
学位授与年月日
平成 14年 9月 30日
学位授与の要件
学位規則第4条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻
連合農学研究科 生物環境科学専攻
学位論文題目
重力式コンクリートダムにおけるフィレットの効果に関する研究
( A Study on the Effect of Fillet in Concrete Gravity Dam )
論文の内容の要旨

 重力式コンクリートダムにおいて,堤体の上流面を鉛直にする場合,ミドルサードの条件を満たし, 堤体の安全性と安定を高めるためる方策の一つとして,堤体上流面下部にフィレットを付設する方法が採用される. また,上流面に勾配を付けるより,フィレットのあるほうが,基礎との接着面が大きくなり, 堤体の滑動に対する安定性も増すことになる. 重力ダムの基本設計では一般に梁の理論が用いられるが,この理論による計算では,堤体下部の 上下流面近傍の応力を精度良く把握できない.

 本研究では有限要素解析によって,フィレットを付設した堤体の詳細な応力解析を行い, それによる堤体の安定性の精細な定量化を試みる. すなわち堤体におけるフィレットの効果について考察し,するこの重力ダムにおける合理的な設計に 資することを目的とする.

 実際にあるダムの諸元を用い, 1)フィレットの有無, 2) フィレット勾配のみを変化させる,  3) フィレット勾配と下流面勾配を共に変化させる, の3つ場合について,満水時と空虚時の変位, 反力,応力および堤体の安全性・安定性を解析し,フィレットの効果を考察した. また,基礎地盤を含めた解析モデルを用いて,基礎地盤の影響及び堤体の滑動について検討した. その結果,次のような結論を得た.

1. フィレットの有無による変位,反力および応力の差異

 満水時および空虚時の場合についてそれぞれ検討した.
 a.変位:変位の特徴が最も大きく表れる堤体天端における上流側の水平変位は,フィレットがない場合, フィレットがある場合に比べ,満水時においては92%であり,空虚時においては88%であり,91%と小さい.
 b.反力:フィレットの有無いずれの場合も満水時には上流側下端に引張力が生じているが, 空虚時には上流側下端に引張力が生じていない.
 c.垂直応力:フィレットの有無いずれの場合も満水時には上流側の基礎面の直上の引張応力がかなり大きいが, 空虚 時に引張応力が生じていない.

2.フィレット勾配のみが変化する場合の最大主応力

 二次元解析および三次元解析の結果,フィレットとそれに近い部分の最大主応力は大きい影響を 受けることがわかる. これらの部分ではフィレット勾配が大きくなるほど最大主応力は小さくなる. フィレットおよびフィレットに近い部分では,二次元解析による最大主応力に比べ, 三次元解析によるそれはかなり小さくなる.フィレット勾配を大きくした場合,二次元解析において, 下流面勾配を小さくしてもフィレットの底部の最大主応力を減らすことができる.

3. フィレット勾配のみが変化する場合の水平変位

 堤体の上流面の水平変位もフィレット勾配が大きくなるほど小さくなる. 二次元解析による堤体の上流面の水平変位に比べ,三次元解析によるそれはかなり小さくなることはわかった. 実際のダムでも同様であると推察される.フィレット勾配を大きくした場合,二次元解析において, 堤体の上流面の水平変位も小さくなることが確認された.

4. 基礎地盤特性の影響

 フィレット勾配のみの変化した場合およびフィレット勾配と下流面勾配の同時変化した場合, 地盤の静弾性係数(剛体地盤では無限大)が大きいほど,最大主応力は大きくなることがわかった.

5. 堤体の安定

 フィレット勾配のみの変化の場合,フィレット勾配が大きいほどコンクリートの安全性が増し, ダム本体が安定する. またフィレット勾配を大きくすれば,下流面勾配を小さくしても,コンクリートの安全性が増し, ダム本体が安定することがわかった.