氏   名
うちだ なつよ
宇智田 奈津代
本籍(国籍)
山口県
学位の種類
博士(農学)
学位記番号
連研 第217号
学位授与年月日
平成 14年 3月 31日
学位授与の要件
学位規則第4条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻
連合農学研究科 生物環境科学専攻
学位論文題目
黒ボク土壌の腐植集積機構に関する研究
( Studies on the mechanism of humus accumulation in Ando soils )
論文の内容の要旨

 

 本研究では、北海道に分布する黒ボク土の表層および埋没腐植層を対象に、 土壌中に存在する微粒炭が黒ボク土の腐植集積にどのようにかかわっているのかを 明らかにすることを目的とした。 また、それらの微粒炭の存在量、形態的特徴、微粒炭と無機鉱物、腐植酸などとの 相互関係等の側面から詳細に検討を加えたものである。

1.黒ボク土腐植層における微粒炭の存在状態

 供試土壌の特性を把握するために腐植集積と関連のある全炭素量、腐植量、 選択溶解によるAl, Fe, Si量などを求めた。 ついで、黒ボク土中の微粒炭存在量を各比重画分別に測定し、それらと炭素量および 腐植量との対応関係について検討を行った。 さらに、黒ボク土の腐植集積に関与している活性Alとの関係についても併せて検討を行った。 その結果、比重1.6以下画分および比重1.6-2.0画分のいずれにも微粒炭が含まれていたが、 それ以上に腐植、細粒の鉱物、微粒炭などの粒団からなる集合体の存在割合が高いことを明らかにした。 比重1.6以下画分>>比重1.6-2.0画分>比重2.0以上画分の順に、多くの炭素、腐植酸が含まれていた。 比重1.6以下画分および比重1.6-2.0画分から抽出した腐植酸のRFは土壌全体における腐植酸のRFよりも高く、 比重2.0以下画分には腐植化度の高い腐植酸が含まれていた。 また、比重1.6以下画分および土壌全体では微粒炭量と全炭素量、腐植酸量の間に関係は見られなかったが、 比重1.6-2.0画分では5%水準で相関関係が認められた。 これらとは対照的に、Alpと炭素量および腐植量の間にはより明瞭な関係がみられた。 このことから、微粒炭よりもAlの方が腐植集積に大きな影響を与えていることが推察された。

2.黒ボク土腐植層土壌の比重2.0以下画分に含まれる粒子の特性

 比重分画実験で観察された微粒炭と集合体の形態学的な違いについての知見を得るために、 過酸化水素処理により腐植を除去し光学顕微鏡と走査型電子顕微鏡による形態観察を行った。 光学顕微鏡による検鏡では、放射組織、柔組織などに由来する植物細胞・組織を保持した構造を持つ 微粒炭と不定形粒子の集まった粒団物質(集合体)が確認された。 未処理試料において、微粒炭は黒色、集合体は灰黄褐・暗褐~黒色といずれも暗色であったが、 過酸化水素処理後には集合体は黄橙~透明もしくは白濁色に変化した。 他方、微粒炭自体には過酸化水素処理に伴う色の変化は見られなかった。 これらの結果は走査型電子顕微鏡による観察においても同様であった。 集合体の大部分は過酸化水素処理による腐植の除去に伴って細粒化したことから、 腐植は集合体の形状を安定に保つ役割を果たしていることが推測された。 また、過酸化水素処理後に超音波処理を行っても壊れない集合体が観察されたことから、 集合体の形成には有機物、低結晶性アルミノケイ酸塩・鉄酸化物などの二次鉱物も関与している可能性が示唆された。 以上の結果より、微粒炭と集合体は存在状態、構成成分などが大きく異なることが明らかになった。 とくに、土壌中における集合体の存在割合は高く、黒ボク土の特性および腐植集積に多大な影響を及ぼすことが 示唆された。

3.微粒炭、無機鉱物・無機元素と腐植酸の相互関係

 微粒炭の化学的特性、とくに腐植の吸着特性を明らかにするために、 アロフェン、フェリハイドライト、微粒炭および活性炭に対する腐植酸吸着実験を行った。 また、これらの物質が土壌の腐植集積において果たす役割についても併せて検討を行なった。

 腐植酸の吸着量は、黒ボク土の土壌pH域である4~6では、アロフェン>>活性炭>フェリハイドライト>微粒炭 であることが示された。アロフェンの腐植酸吸着に著しいpH依存性が見られたことから、 腐植酸収着反応には配位子交換反応と沈殿生成反応の両方が関与していると考えた。 微粒炭の腐植酸吸着量は活性炭の腐植吸着量の半分以下と小さく、平衡pH6以上では炭素の溶出が見られた。 このことから、腐植の集積における微粒炭の活性炭様効果は小さいと考えた。 また、土壌中の活性Alの存在量は微粒炭より圧倒的に高いことから、黒ボク土における腐植集積への寄与は 微粒炭よりも活性Alの方がはるかに大きいことが明らかになった。以上の結果より、黒ボク土における 腐植集積への寄与は、微粒炭よりも活性Alの方が著しく大きいことが明らかになった。

 以上の結果を基に、1)黒ボク土の腐植集積における微粒炭の役割、2)黒ボク土の腐植集積機構とその生成、 3)黒ボク土の腐植集積とAlの関係、の側面から総合的に考察し、微粒炭の黒ボク土における 腐植集積への重要性はそれほど高くないことを明らかにした。 また、微粒炭よりも腐植・無機物粒団物質の“集合体”が黒ボク土の特性および腐植集積に寄与する 役割が大きいことを提示した。