氏   名
リ チアン ゾン
李 天忠
本籍(国籍)
中国
学位の種類
博士(農学)
学位記番号
連研 第216号
学位授与年月日
平成 14年 3月 31日
学位授与の要件
学位規則第4条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻
連合農学研究科 生物資源科学専攻
学位論文題目
リンゴ自家不和合性におけるS-RNaseの分子機構の解析
( Molecular Mechanism of Self-incompatibility Mediated by S-RNase In Apple Cultivars )
論文の内容の要旨

 本論文は、リンゴの自家不和合性のメカニズムを解明するため、生化学、 免疫化学および分子生物学などの方法を用いて、S-RNaseが花粉管とどのように相互作用しているか、 自家和合性とS-RNaseの発現量がどのように関連しているか、S-RNaseの発現形質は親本からどのように 遺伝されているか、自家結実性を有する品種はS-RNaseの突然変異によって生じるかどうかなどに関して 分子および細胞レベルでの研究を行なった。

1.リンゴではS-RNaseが花柱皮層組織に存在せず、花柱誘導組織に存在している。 花柱は一般的に5つに分かれた柱頭が途中で1本になって子房に達するが、花粉管の誘導組織が まだ5本に分かれたまま五つの心室を含む子房に達している。 花粉管誘導組織は花柱上部から基部に向かって横断面積の著しい減少が見られた。

2.リンゴにおいてもニホンナシと同様にS-RNaseは花柱側に特異的な蛋白質である。

3.開花日およびそれ以降においても無受粉処理の試料切片では、S-RNaseが 花柱誘導組織細胞内に局在している。受粉処理切片においては、花粉管が到達していないサンプルは S-RNaseが花柱誘導組織細胞内に局在していることが観察された。一方、花粉管が到達しているサンプルは S-RNaseが花柱誘導組織細胞間隙および花粉管内に局在していることが観察された。

4.花柱誘導組織はS-RNaseの存在する細胞とそうでない細胞で構成されていた。 S-RNaseの存在する細胞は存在していない細胞より高い電子密度として観察された。

5.花粉管先端および基部の見られた同一切片において、S-RNaseの存在量は花粉管の基部より 先端の部分に多いことが観察された。

6.in vitro で‘SD’花粉をSD Se-RNaseおよびRNaseAの入った培地に培養した花粉管でも それぞれ花粉管先端にSD Se-RNaseおよびRNaseAの存在が検出され、S-RNaseが花粉管へ 非選択的に移動することが観察された。

7.‘SD’の遺伝子型を持たないゴールデンデリシャス(SaSb)で受粉を行ったが、 自家受粉と同様にS-RNaseが花粉管内に検出されたことから、S-RNaseは花粉管の S遺伝子型と関係なく非特異的に侵入すると考えられた。

8.自家和合性品種‘恵’は自家不和合性の強い品種‘SD’より花柱誘導組織において S-RNaseの存在する細胞が少なく、S-RNaseの存在する細胞内にS-RNaseの存在量も少ないことが観察されたが、 自家結実性の高い品種‘弘大1号’はS-RNaseの発現量が‘SD’と同程度に多いことが確認された。

9.‘恵’の種子親である‘国光’では‘恵’と同様にS-RNaseの存在する細胞が少なく、 S-RNaseの存在する細胞内にS-RNaseの存在量も少ない。一方、‘恵’の花粉親である ‘紅玉’では、S-RNaseの存在する細胞は‘恵’および‘国光’に比べ非常に多く、 S-RNaseの存在する細胞内にS-RNaseの存在量も多いことが観察された。

10.‘弘大1号’、‘迎秋’、‘オンタリオ’および‘アンブリ’のS-RNaseの cDNAクローニングから、二つのS-RNaseが存在し、それらは既に報告されているSa~Sfの いずれと同一であった。また、‘オンタリオ’からは1つの新たなS対立遺伝子が同定できた。

11.S-RNaseとrRNAとの結合を調べる目的でrDNAプローブを作製した。 ‘SD’花柱横断切片を用いて、rDNAプローブにより花柱誘導組織細胞内および花粉管内に rRNAを存在することが確認された。 しかし、S-RNaseの免疫染色は結果が得られなかった。