氏   名
ささき ゆか
佐々木 由佳
本籍(国籍)
宮城県
学位の種類
博士(農学)
学位記番号
連研 第214号
学位授与年月日
平成 14年 3月 31日
学位授与の要件
学位規則第4条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻
連合農学研究科 生物生産科学専攻
学位論文題目
水田土壌の微地形と化学性を利用した水稲栽培における精密農業
( Precision Agriculture in Rice Cultivation with Reference to Microtopography and Chemical Properties of Paddy soils )
論文の内容の要旨

 本研究は山形県鶴岡市において水稲収量を高める精密農業を構築することを目的とし、 圃場の空間変動を認識した情報を得るための検討と、圃場の空間変動をもとに作物の生育を予測し、 適切な肥培管理を行うための圃場管理モデルを作成するための検討を行った。

1.圃場の空間変動と空間変動の成立要因

 鶴岡市水田土壌の化学性および水稲の生育・収量の空間変動と空間変動の成立要因について検討し、 以下のことを明らかにした。

 pH以外の鶴岡市水田土壌の化学性は空間的分布に大きな変動があると推測され、 鶴岡市水田土壌の化学性の空間変動には空間依存性が認められた。CEC、全窒素量、リン酸吸収係数、 交換性Ca量、交換性Mg量、交換性Na量の空間変動は上流地質の影響を受けていることが示唆された。 pH、可給態リン酸量、交換性K量、塩基飽和度の空間変動は栽培技術の影響を受けていることが示唆された。

 既存の土地分類図は土壌の化学性の空間的分布との関係が認められなかったが、 微地形を解析して水系網から求められた地形区分地域は上流地質および地形の特徴を反映し、 土壌の化学性の空間的分布と対応することが明らかになった。 水系網から求められた地形区分地域は空間変動の推定や圃場管理モデルの設定を行う地域として 適当な単位となると考えられた。

 鶴岡市の水稲の精玄米収量は集落間の変動を示す変動係数が低く、空間変動には空間依存性が認められなかった。 これは、鶴岡市の水稲栽培農家が環境条件に対応して栽培技術を変化させているためと考えられた。

 衛星リモートセンシングのデータから算出した水田のNDVIはどの生育時期においても地形区分地域により 異なることが明らかになった。 しかしながら、水田のNDVIの地形区分地域間差には地形区分地域間の作付け水稲品種による葉色の差、 水稲の初期生育の差、水稲の幼穂形成期以降の生育の差による影響が認められなかった。 今後さらに、水稲の生育や栽培技術の空間変動を検討し、水田のNDVIから水稲の生育の空間変動を推定する方法を 明らかにする必要があると考えられた。

2.圃場の空間変動をもとにした圃場管理モデルの作成

 複数の供試圃場における移植20日後の水稲茎数は移植20日後の土壌溶液中アンモニア態窒素量との間に 正の相関が認められた。移植後20日間の最高気温の平均値が25℃以下で最低気温の平均値が15℃以下の場合、 移植20日後の水稲茎数の圃場間差は土壌溶液中アンモニア態窒素量の圃場間差により説明されると考えられた。 年次、苗質、地形区分地域、化学性グループの違いに関係なく、土壌溶液中アンモニア態窒素量を変化させることにより 移植20日後の水稲茎数を調節できることが示された。

 圃場条件下の土壌溶液中アンモニア態窒素量は土壌中交換性アンモニア態窒素量、CEC、 土壌中二価鉄量との間に一定の関係が認められなかった。 還元の進行による土壌への二価鉄およびその他の陽イオンの溶出量が少ない条件下では、 土壌溶液中アンモニア態窒素量は土壌中交換性アンモニア態窒素量とCECと窒素吸着強度に支配されることが 明らかになった。

 圃場条件下での1997年活着期、1998年移植時の土壌溶液中アンモニア態窒素量は 土壌中交換性アンモニア態窒素量とCECを説明変数とした有意な回帰式が求められた。 1998年移植20日後、1999年移植20日後の土壌溶液中アンモニア態窒素量は土壌中交換性アンモニア態窒素量、 CEC、土壌中二価鉄量を説明変数とした有意な回帰式が求められた。 これは、CECに占めるNH4+-N荷電量の割合が高くなるほど、またはCECに占めるFe2+荷電量の割合が高くなるほど 土壌溶液中アンモニア態窒素量が高められることが原因であると考えられた。

 1999年移植時の土壌溶液中アンモニア態窒素量は土壌中交換性アンモニア態窒素量とCECを説明変数とした場合は 有意な回帰式が求められなかったが、説明変数に土壌溶液中陽イオン(Ca量、Mg量、Na量、K量)の合量を加えることで 有意な回帰式が求められた。 土壌中交換性アンモニア態窒素量、CEC、土壌中二価鉄、土壌溶液中陽イオンの合量により、 1998年移植20日後の土壌溶液中アンモニア態窒素量は78.6%が説明されたが、 1999年移植20日後の土壌溶液中アンモニア態窒素量は34.0%しか説明されなかった。

 今後、様々な条件下で水稲の初期茎数に対する土壌溶液中アンモニア態窒素量の影響を検討し、 土壌溶液中アンモニア態窒素量が水稲の初期茎数を高めるメカニズムや水稲の初期茎数の決定要因を 把握する必要があると考えられた。 また、土壌の窒素吸着容量、土壌の窒素吸着強度、土壌中交換性アンモニア態窒素量、土壌中二価鉄量、 土壌中交換性陽イオンの量と組成、土壌中の陰イオンの量と組成、陽イオン交換基の量と種類のそれぞれが 土壌溶液中アンモニア態窒素量に与える影響とそれらの相互作用が土壌溶液中アンモニア態窒素量に与える影響を 検討する必要があると考えられた。