氏   名
AIBIBULA, Yimamu
艾比布拉 伊馬木
本籍(国籍)
中華人民共和国
学位の種類
博士(農学)
学位記番号
連研 第213号
学位授与年月日
平成 14年 3月 31日
学位授与の要件
学位規則第4条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻
連合農学研究科 生物生産科学専攻
学位論文題目
放牧主体飼養時における窒素化合物の去勢牛の消化管部位別消化動態に関する研究
( Studies on dynamics of site and extent of nitrogen digestion in steers grazing on pasture )
論文の内容の要旨

 反芻家畜におけるタンパク質の給源は、主に反芻胃内での微生物により 分解を逃れた飼料タンパク質と反芻胃内で増殖し十二指腸に流入する微生物の体タンパク質である。 牛を草地において放牧飼養した場合、牧草の粗タンパク質(CP)含量は高いものの反芻胃内における 分解率が高いため反芻胃からアンモニアとして損失する窒素(N)が多く、小腸へのタンパク質供給量は 必ずしも多くないといわれている。本論文では、放牧草地における牧草中に含まれるN化合物の放牧牛の 消化管部位別に消化利用される特徴を解明し、小腸へのタンパク質供給量と放牧条件の関係を明らかに することを目的とした。

 放牧のみ飼養時におけるN化合物の消化管部位別に消化利用される特徴を把握するために、まず、 北海道における適切な放牧草種として使われているオーチャードグラス ( Dactylis glomerata L. 以下OG ) とメドウフェスク ( Festuca pratensis Huds. 以下MF) 主体草地において 反芻胃、十二指腸および回腸末端にカニューレを装着した去勢牛4頭を春から秋にかけて放牧させた。 次に、放牧前の草丈と牛への割当草量の水準を変えた異なる草地状態において反芻胃と十二指腸に カニューレを装着した去勢牛4頭を放牧させ、N化合物の反芻胃内における分解や微生物合成への 利用特徴ならびに小腸へのN供給量と消化利用に及ぼす影響について検討した。牧草のCP含量は OG草地で23.5%±2.2, MF草地で25.0%±3.7となった。去勢牛のN摂取量は代謝体重当たり 2.0-5.1g/日の範囲でとなり、反芻胃内における分解率は30-73%の範囲であった。 Nの反芻胃内における分解率と牧草のN含量或いはNDF含量との間に単相関関係が認められ、 Nの分解率と牧草中のN及びNDF含量との間には次の重回帰式 : Y = 91.9 + 7.9X1 - 1.4X2 (X1 : N含量(%), X2 : NDF含量(%),Y:N の反芻胃内における分解率)が得られた。 Nの反芻胃内における分解率はOG草地に比べMF草地で高い値を示した。 反芻胃内で合成され小腸に流入した微生物体窒素(NM)は両草地とも平均1.0g/W0.75±0.2となり、 小腸へのNAN移行量の45%を占めた。小腸へのNAN移行量はOG草地で2.7g/W0.75±0.4, MF草地で2.4g/W0.75±0.5となり、N摂取量に対する小腸へのNAN移行量の割合(NAN/NI)は それぞれの草地で82%±16及び70%±18となった。N摂取量が4.0g/W0.75位になるまでは、 小腸へのNAN移行量はN摂取量の増加にともない増加する傾向であったが、N摂取量がそれ以上増えた時 小腸へのNAN移行量はそれに応じて増加しない結果が表われた。NAN/NI比は反芻胃内で分解される OM摂取量に対する反芻胃内分解性N摂取量の割合が27g/kgを超える草地条件下で放牧した時に減少した。 小腸におけるN消化率は、両草地においても小腸へのN移行量の増加にともない直線的に増加したが、 OG草地場合回帰直線の方がMF草地に比べ傾きが大きく、草地から摂取したNの小腸における利用効率が高い値を示した。

 次に、放牧飼養されている去勢牛に対し併給飼料として圧ペントウモロコシ(1.0kg/比), ビートパルプ(1.5kg/比)を併給した場合とビートパルプを異なる水準(代謝体重あたり0, 15, 30g)で 併給する二つの試験を行い、併給飼料タイプならびに給与量の違いが反芻胃内におけるMNの合成と 小腸へのNAN供給量に及ぼす影響について検討した。草地からのOM摂取量は併給飼料タイプの 違いによる差がみられず、放牧のみ飼養を行った前試験の結果と比べ減少しなかった。 しかし、ビートパルプの給与量の増加にともない草地からの乾物採食量の減少がみられたが、 全飼料からのDM摂取量は処理の間に有意差がなかった。 OMとNDFの反芻胃内における消化率は併給の給与により放牧のみ飼養した時に比べ高くなった。 微生物体Nの合成量は放牧のみ飼養した時の1.0g/W0.75 に比べ 1.5-1.7g/W0.75の 水準までとなり、ビートパルプ給与量の増加にともない増加する傾向がみられた。 従って、小腸へのN移行量のN摂取量に対する割合が高くなり、小腸へのタンパク質供給量は 放牧のみ飼養した時の2.6g/W0.75 の水準と比べ 3.2-3.6g/W0.75 の範囲まで増加した。

 以上のことから、牧草中Nの放牧牛の小腸における利用率はNの反芻胃内における分解率による 強く影響を受けるものであり、Nの分解率には牧草のN含量とNDF含量変化、 草地からのDM摂取量が関与していることが明らかになった。Nの反芻胃内における分解率は放牧前の草丈、 草地へのN施肥及び放牧季節などの影響を受けて変化した。Nの分解率は春と秋の草地に比べ夏は低くなり、 牧草のN含量が高くなり易い春には草丈を適当に高くすることによりNの分解率が抑制された。 N摂取量に対する小腸へのN移行量の割合を高めるためには、反芻胃内で分解されるOM摂取量に対する 分解性N摂取量の割合を30g/kg以下に抑える必要性が示された。