氏   名
やない かずひろ
矢内 和博
本籍(国籍)
岩手県
学位の種類
博士(農学)
学位記番号
連研 第207号
学位授与年月日
平成 14年 3月 23日
学位授与の要件
学位規則第4条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻
連合農学研究科 生物資源科学専攻
学位論文題目
冷凍米飯の理化学的性質に及ぼす凍結および貯蔵条件の影響
(Effect of Freezing and Storage Conditions on Physicochemical Properties of Frozen Cooked Rice)
論文の内容の要旨

 本研究では,高品質な冷凍米飯を製造するために凍結および貯蔵条件が米飯の理化学的 特性に及ぼす影響を明確にすることを目的とした。すなわち,加熱解凍後の米飯粒の白濁 や艶の消失,米飯粒同士の結着性の低下を定量的に評価する客観的評価法を開発するとと もに,冷凍米飯の最適な製造条件の探索を行った。

 第2章では凍結および解凍過程での米飯塊の温度変化について検討し,以下の結果を得 た。(1)凍結中の米飯塊の表面部と中心部の凍結点が,各試験区において一致しなかった 。また,庫内温度が低いほど凍結点に達する時間が短かった。さらに,米飯塊の品温が庫 内温度に達するまでの時間は当然ながら庫内温度が低い方が短かった。(2)マイクロ波加 熱解凍中の米飯塊の中心部と側表面部の温度曲線が,解凍開始後30~50秒後に交差する現 象が見られた。また,加熱開始からこの温度曲線が交差する時間は,試料により異なった 。さらに,最終温度に達する時間も同じく試料により異なった。これは,米飯塊が米飯粒 の不均一な集合体であることに起因すると考えられる。

 第3章では,マイクロ波加熱解凍を前提とした冷凍おにぎりの品質向上に向けて,米飯 塊の凍結条件と貯蔵条件が米飯の諸特性に及ぼす影響を検討した。その結果,次のことが わかった。(1)マイクロ波加熱解凍後の水分含量は,米飯塊の中心部が低く,表層部が高 くなる傾向が認められた。これは,急激な温度上昇により中心部の水蒸気圧が高くなって 水分子が外側に拡散されるのに対して,表層部は包装により水分が保持されるためと考え られた。(2)凍結温度を-13.0~-31.0℃,貯蔵温度を-31.0℃,貯蔵期間を7日間程度に した場合,未凍結の場合に比べて米飯塊の白濁および黄変の抑制,破断特性の維持が図れ て良好であることが明らかになった。(3)自然解凍した米飯塊のデンプンの糊化度は,凍 結温度,貯蔵温度および貯蔵期間に対して一定の傾向は認められないことから,米飯塊の 白濁,破断応力と破断ひずみの増加にはデンプンの老化が関連してはいるが冷凍米飯の品 質劣化の主因ではないことが示唆された。

 第4章では,米飯の白濁現象に影響する要因の解明に向けて,米飯の組織構造やデンプ ンの老化が米飯の白濁に及ぼす影響を明確にすることを検討した。その結果,次のことが わかった。(1)凍結解凍後の米飯塊の -アミラーゼ・プルラナーゼ(BAP)法によるデンプ ンの糊化度は,各試験区において対照系との間に有意差が見られなかった。また,デンプ ンの糊化度と色特性において白濁を示す明度(L)の間に一定の関連性は見られなかっ た。デンプンの老化は,糊化デンプンの再結晶化によるため,X線回折(XRD)による回折 ピークの位置や強度および示差走査熱量測定(DSC)での検討が必要であると考えられた 。(2)XRDの結果,対照系および凍結解凍した各試験区においてデンプンの再結晶に起因す ると考えられる回折ピークが2=20°の 位置に観察された。回折ピークの強度は,試料の 水分やサンプルホルダへの充填状態により変化するので,回折ピークの強度による定量的 考察は行えなかった。したがって,この結果と色特性の値を直接比較することはできなか った。(3)米飯塊の表層部と中心部における米飯粒の表面および断面をSEMにて観察した。 未凍結の米飯粒表面には,なめらかな領域と荒れた領域が混在した。これは,試料の処理 の際,結着した米飯粒同士をほぐしたために結着面が荒れたと考えられた。また,なめら かな領域には,空隙や裂溝は観察されなかった。しかし,凍結処理した米飯塊表層部の米 飯粒では,そのなめらかな領域において空隙が観察された。またそれは,凍結および貯蔵 温度が高くなるほどまた凍結期間が長くなるほど,頻度が増し,大きさも増大した。この 空隙の大きさは可視光線の波長領域より大きいため,米飯粒の表面において乱反射が起こ り,白濁して見えることがわかった。また,米飯粒断面のSEM画像から,米飯粒の周囲に は被膜様の構造が観察された。これは,炊飯中に流出したデンプン糊化液が沸騰,蒸らし の段階で濃縮され米飯粒に付着したものである。この皮膜には多数の空隙が観察された。 また,米飯粒表面には裂溝が観察された。これらの大きさも,光の乱反射を起こすには十 分の大きさであることから,皮膜の空隙および裂溝の大きさも米飯の白濁に影響を及ぼす と考えられた。

 第5章で本研究を総括した。上述の検討から以下のことがわかった。
 (1)米飯塊の凍結および解凍における温度変化は,その表面と中心部において同一では なかった(2)米飯塊のマイクロ波加熱解凍では,その中心部の方が先に加熱されるため,解 凍後の米飯塊の中心部の水分が減少する傾向が見られた。(3)凍結温度を-13.0~-31.0 ℃,貯蔵温度を-31.0℃,貯蔵期間を7日間程度にした場合,未凍結の場合に比べて米飯 塊の白濁および黄変の抑制,破断特性の維持が図れて良好であることが明らかになった。 (4)X線回折による米飯塊の老化度の評価は,試料の水分が各試験区および試料ごとに一定 ではないため,定量性のあるデータが得られなかった。(5)米飯塊のSEMによる観察により ,米飯の表面には,被膜が形成されており,凍結,解凍により空隙が生じた。空隙は,貯 蔵温度が高く,期間が長くなるにつれて,出現頻度が増加した。よって,この空隙が米飯 の白濁に寄与することが示唆された。(6)凍結温度を-13.0~-31.0℃,貯蔵温度を-31. 0℃とすれば,良好な品質の冷凍米飯を製造できると考えられた。