氏   名
すえつぐ きょうこ
末次 京子
本籍(国籍)
神奈川県
学位の種類
博士(農学)
学位記番号
連研 第201号
学位授与年月日
平成 14年 3月 24日
学位授与の要件
学位規則第4条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻
連合農学研究科 生物資源科学専攻
学位論文題目
tmRNAによるtrans-translationの分子メカニズムの解明
(Molecular mechanism of trans-translation by tmRNA (10Sa RNA))
論文の内容の要旨

 真正細菌に普遍的に存在するtmRNAは、一分子でtRNAとmRNAの二つの働きをもち、 trans-translationと呼ばれる新たな翻訳システムの中心的役割を果たしている。trans-translationとは、 何らかの原因によりリボソーム上での翻訳が停止した場合、tmRNAはまずtRNAと 同様に3末端にアラニンを結合し、そのA-siteに入る。次にtmRNA自身の一部の配列に翻訳 の切り替えが起き、短いペプチドが翻訳されたのちtmRNA上の終止コドンを用いて翻訳を 終結させる。結果として、先にあったmRNAから翻訳された不完全なペプチドのC末端にtmRNA 由来のペプチド(タグペプチド)が付加されたものが作られ、タグペプチドはプロテア ーゼの標的となり選択的に速やかに分解される。一連の反応により、滞ったリボソームの リサイクリングが可能となり、翻訳効率が向上するだけでなく、不完全に合成されたタン パク質が選択的かつ速やかに分解される。このユニークな機構は(1)ひとつのRNAがtRNA とmRNAの両機能を持つという新しいRNA機能、(2)2種のmRNAの翻訳の切り替えによりキ メラペプチドを合成する新しい翻訳機構、(3)出来損なったタンパクを選択的に分解す る細胞内の新しい品質管理機構、という3つの観点から興味深いものであるが、これまで その詳しい分子メカニズムは明らかになっていなかった。本研究ではtmRNAの特異的構造 に着目しその機能のとの関連を解析することによるメカニズム解明を目指したものである。

 本論文は二つの章、第1章tmRNAにおけるtRNA-like domainの役割、第2章 trans-translationにおけるSmpBの役割、から構成されている。

 第1章ではtrans-translationのメカニズムの一環を明らかにする目的で、まず tmRNA上のtRNA様構造部位に着目し、そこに多数の変異を導入したtmRNA変異体を作製し、 in vitroにおいてtRNAとしての機能、mRNAとしての機能を網羅的に解析した。その結果、tRNAとし ての機能には全く影響を与えないが、mRNAとしての機能を完全に失う19C、334U変異体を 得た。解析の結果19C、334U変異体はリボソームと結合できないこと、さらにtmRNA結合タ ンパク質であるSmpBとは結合できず、それがリボソームと結合できない原因であることを 明らかにした。

 第2章ではtmRNA結合タンパク質のひとつであるSmpBのtrans-translationにおける役割を tmRNA変異体との関連で解析した。その結果、SmpBは通常の翻訳には関与しないが、 trans-translationにとって必須の因子であり、SmpB非存在下では、tmRNAはリボソームと結合 することができないこと、また、SmpBとの結合にはtRNA様構造部位、特に19番目、334番 目の塩基が重要であることを明らかにした。またSmpBが濃度に依存してtmRNAのアミノア シル化が活性化すること、SmpBは細胞内でのtmRNAの安定化に大きく寄与していることも 明らかにした。

 以上をまとめると、tmRNAはtRNA様構造部位、特に19番目、334番目の塩基付近でSmpBと 結合する。SmpBとの結合によりtmRNAはヌクレアーゼ分解から保護される一方、tmRNAは構造 変化を起こし、アミノアシル化が活性化される。そして、アミノアシル化したtmRNAとSmpB との結合はリボソームとの結合にも必須である。

 本研究によりtrans-translation反応におけるtmRNAのtRNA様構造部位の役割とそこへ結合 するSmpBタンパク質の働きが初めて明らかにされ、この反応の分子メカニズムの重要な局 面が解明された。