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むらかみ やすし 村上 和史 |
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岩手県 |
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博士(農学) |
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連研 第198号 |
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平成 14年 3月 23日 |
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学位規則第4条第1項該当 課程博士 |
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連合農学研究科 生物生産科学専攻 | ||
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水田作経営体の労働組織の編成と管理 (Structure and Management of the Labor Organization in Paddy Farming) |
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本論文では、水田農業における担い手を育成する立場から、岩手県の 水田作を主部門とする経営体の経営成長に伴って、労働組織が高度化する過程を分析した。 対象は、常時勤務する構成員が20名強、非常勤雇用が約50名で構成される有限会社S農産で ある。S農産の特徴は、水田利用作目に加え、施設園芸や食品加工等の多角化が展開したこと であり、本論は、設立から15年間の成長過程を分析した。 第1章では、一般に雇用の投入が多いとされている農業生産法人の動向を捉え、その雇用 の実態と問題点を抽出した。一般に、法人経営において、規模が大きくなると常勤雇用に労働力 を依存する。しかし、収益確保や財務管理等が当面の課題となり、労働管理は課題としての意識 が弱い。ただ、規模の大きい法人ほど、労働管理を課題として重視する傾向も確認され、労働 管理は、将来に向けての重要な課題と捉えることができる。 第2章では、S農産の経営の概況を示すと共に、経営成長の過程を分析した。成長ステージ は、売上高の上昇度より、4期に分類した。最初のステージは「設立初期」であり、任意組合 だった受託組織が、法人経営へと名実共に変化する時期である。第2ステージは、「緩やかな 拡大期」であり、この時期では輪作体系が確立し、資本装備が概ね完了した。次のステージは、 「急激な拡大期」であり、水稲やピーマンの作付け拡大が行われた。最後のステージは、「成熟期」 であり、新規野菜部門が導入された。この成長に伴い、労働力は第1ステージでは非常勤雇用で 構成されていたが、長期作業化の進展により第2ステージには常勤化され、第3ステージには 生産拡大に併せて外部から常勤雇用を採用し、第4ステージは野菜作の拡大に向けて非常勤雇用の 増員といった過程を経た。 第3章では、成長ステージの高度化に伴い、協業編成の変化を明らかにした。S農産は、 雇用形態別に作業効率を向上すべく、担当する作目や作業の固定化を行った。その方策として、 ①補助作業を要しない作業体系とすること、②労働時間が均一となる作目構成を行ったことが 明らかとなった。 次に、「労働時間の振れ」と「労働の集中度」「年間労働時間」の3指標を計測し、 年次毎に作業員の分布を捉え、協業編成の年次推移を示した。すると経営成長に伴い、 「年間労働時間」は増加し、「労働時間の振れ」は縮小した。一方「労働の集中度」は高まり、 特定の作目・作目群に対する専門化が進行した。また、常勤雇用と非常勤雇用で形成される時期 には「労働時間の振れ」と「労働時間の集中度」の2指標に劇的な変化が見られた。これを、 成長段階を労働力構成で捉えた「協業編成モデル」で示すことができた。 第4章では、組織構造の変化を捉え、分権化の進行とそれに伴う組織形態の変化を明らかに した。S農産の場合、1995年頃には簡易な職能制の組織形態となり、役員と常勤雇用間に階層差が 生じた。さらに事業の多角化と生産(製造)規模の拡大が進んだ2001年には、部課長制を導入し、 常勤雇用にも役職が解放され、階層構造は広がりをみせた。また、垂直多角化に加えて水平多角化が 芽生え、部門制が採用されたが、作目毎の計画や管理責任を明確にしたに留まり、作業指揮とは合致 しなかった。その理由は、作業がプロジェクトチーム(作業班)によって実施されるからである。 経営成長に伴う組織の分権は、垂直的分化、水平的分化の順で進行が明らかとなったが、S農産の 場合は未熟な分化と評価される。また、組織の分化は、良質な労働力の活用を目的とすることも 明らかとなった。 組織が高度化し、専門化が進むと組織特有の専門職に従事する作業員が形成される。第5章 では、この専門職を組織内プロフェッショナルと称し、機械作業に従事する作業員から特定した。 プロフェッショナルは、農作業上の暗黙知の領域について高い能力を発揮し、組織への還元に努める ことが大きな特徴である。その行動規範は、作業全般の速度及び作業精度の維持・向上を目的と しており、個人の技能を作業に生かすこと、他の作業員を指導すること、問題を上層部へ指摘する こと等、自己の意思に基づき行動していた。また、プロフェッショナルは組織の階層から切り離し、 裁量労働を認めて自由度を高めることで、その能力を発揮することも、特徴の一つである。プロ フェッショナルを形成する基盤として、規模拡大に伴い、高度な連携を要する組織作業が確立する ことと、作業を反復することで高度な技能を養成されることが明らかとなった。 第6章では、総括として、水田作経営体の成長ステージに対して「労働編成」、「組織の分化」 の展開を対照することにより、労働編成が高度化する過程をまとめた。その結果として労働管理は 3つの段階を踏まえていることが明らかとなった。 |