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いわた さとし 岩田 智 |
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岐阜県 |
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博士(農学) |
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連研 第194号 |
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平成 14年 3月 23日 |
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学位規則第4条第1項該当 課程博士 |
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連合農学研究科 生物生産科学専攻 | ||
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農山村振興目的の第三セクターに関する研究-岩手県を中心として- (A Study on the Public-Private Joint Organization for Rural Development in Japan) |
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本研究の課題は、特に1980年代以降に第三セクターという形態において 進められてきた農山村地域における地域振興の実態とその問題点、並びに今後それに代わりうる 自治体行政のあり方について、岩手県を対象として考察することである。 第1章「地域振興組織の歴史と研究動向」では、今日、第三セクターと呼ばれている組織が すでに昭和初期から「公私混合企業」「公私合同企業」という名称で存在していることを示した。 第2章「岩手県における地域振興に関わる第三セクターの特徴について」では、地域振興を 主たる目的とする第三セクターが多いという特性を踏まえて、全国から岩手県に焦点を絞っ て研究を行った。 第3章「最近の地域振興に関わる第三セクターの変化」では、最近(1990年後半)における 第三セクターの変化について、第2章における結果と比較して考察を加えた。 第4章「ポスト地域振興策としてのPFI」では、ポスト地域振興策として注目されている PFI(Private Finance Initiative:民間資金等活用事業)について考察を加えた。以上の考察を 踏まえて、次のような結論が導きだせた。 第1に、第三セクターに類似した事業体は、国レベルにおいては、戦前では幼稚産業育成 目的や植民地政策目的等の国策事業遂行目的で設立されていた。しかし、我が国において第三 セクターが行政手法として広範に利用され始めたのは、戦後の高度経済成長にかげりが見えた時期 である。それは、それまでの成長促進政策の継続を目指して、公共事業に民間資金を誘導する目的 で設立されたものである。それは新全総の大規模開発から始まって、1980年代以降には農村部の 市町村においても地域振興等の手段として、行政の別働隊として設立されている。 一方、第2章の分析で明らかになったように、今日、第三セクターと言われているものは、 きわめて多様である。それは全く民間企業と変わらないものから、営利性の低いものまで幅広く 存在する。そのような考察については、出資比率25%以上・以下と民法法人・商法法人の2つの 軸で分類する方法が、有効であることが示された。このうち、出資比率25%以上の商法法人が、 本研究が対象とした地域振興目的の第三セクターの典型であった。 第2に、第三セクターは、公的部門と民間部門が共同して設立した組織であることから、 そもそもの設立理由が公的部門と民間部門とでは異なることが重要である。むろん、表面上は 第三セクターの設立目的は、地域振興目的などの公共性のある目的を掲げているが、表の目的の 背後にある真の設立目的は、公的部門は行政の別働隊を作ることであり、民間部門は営利の追求 である。 第3に、岩手県の場合、県が主体となっている第三セクター場合は、すでに第三セクターの 現状分析を行い、それを踏まえた解散までを含む経営改善策が実施されている。しかしながら、 岩手県内の市町村が主体となっている第三セクターについては、問題を認識しながら対策が採られ ている例は希である。なぜ、県ができて市町村ができないか、その理由は次のように考えられよう。 市町村における問題を抱えている第三セクターの整理合理化を行う場合は、その首長の強いリーダー シップと英断があった場合である。この英断には、従業員の処遇問題だけでなく首長自身の責任 問題や内部の利害関係者の責任問題も生じ、なかなか踏み出せないと思われる。従って、県の場合は 首長が強い決意で望んだ証拠であり、市町村の場合は個々の市町村により差があるものの、まだ そこまでの決意で第三セクター問題に取り組む首長が少ないことが伺える。これは、戦後の経済成長 第一主義的な政策が長く続く中で、市町村の行政が国や県の政策の下請的性格が強まり、主体的に 判断することが出来なくなっていることに1つの原因があると考えられる。この結果として、国や 県から指導がされるまでは、自らの判断で決断できないためである。 一般論では、これからは農山村でも補助金等の公的資金にたよらない地域振興策を考えるべき だといわれている。しかし、農山村では第4章で分析した金ヶ崎における準PFI事業の場合でも、 補助金等の公的資金の交付を受けないで立ち上げることは、極めて困難である。このような現実を 踏まえながら、今後は第三セクターに代わる地域振興のあり方を考えていく必要がある。 そのような問題に対して、第4に、第4章の金ヶ崎町の事例分析から、PFIという方式が、 第三セクターを活用した公共サービス提供の問題点を改善する可能性が高いといえる。それは、 ①公共サービスの提供方式は、第三セクター方式が公民出資による組織を通じて行うのに対して、 PFI方式は民間が契約に基づいて直接提供するため、公民間の事業に対する目的の食い違いが 生じにくい。②公共サービスを提供する事業者を選定する際に、第三セクター方式では密室による 協議方式によって決定されるのに対し、PFI方式は公募を原則としており、既得権益を有している 利害関係者などの思惑が入る可能性が少ない。③公共サービスを提供する事業の事前評価については、 第三セクター方式は事業実施を前提とした採算性について甘い評価になる可能性が高いが、PFI 方式の場合は事業者が経営リスクを負うため厳しい評価となる。④公共サービスを提供する事業の 運営は、第三セクター方式の場合は地域住民の雇用、地元産品の購入等、出資による建設受注への 期待等、第三セクターの経営に寄与しない出資者の意向が強く反映されため、事業運営が甘くなる 可能性が高い、PFI方式の場合は採算性が重視されるため、事前に取り決めがない限り、この ような市場原理を無視した取引は生じにくい。⑤公共サービスを提供する事業に何か問題が生じた 場合、第三セクターは公民の責任分担が不明確なため、公的部門が責任を負う場合が多い。しかし PFI方式ではこのような問題が生じた場合を事前に予想して詳細な契約が結ばれているため、 公民の間で責任問題で争う可能性は低い。⑥PFI事業は、これまでの方式に比して事業リスクを 民間事業者に負担させるため、公共サービスを提供する事業にPFI方式を活用する場合、その 事業の需要予測の精度が高ければ高いほどPFI方式を導入しやすくなる。その事業の需要予測の 精度が低くければ低いほど、PFI方式を導入することは困難となる。⑦PFI方式を地域振興 目的に利用するという発想があるが、PFI方式は事業における民間企業の創意工夫を重視すると いう点で効果があると考えられる。 特に、PFI方式による公共サービスを提供する場合の利点は、④の詳細な契約を導入する ことによる公私のリスク負担が明確になることである。従って、天災等の特殊な場合を除き、 PFI事業による公共サービスの提供にかかる公的部門の負担に一定の歯止めがかかることになる。 また、民間から公共サービスを購入することによって、その事業に関する民間のノウハウが活かされ より効果的な公共サービスが提供できる。その結果、新たな民間の事業機会が生まれる可能性が高く、 農山村でさえも雇用創出効果があると思われる。 以上のように、第三セクターは、戦後の経済成長を第一義とする経済政策の下で一般化した 特殊日本的な行政手法と言うことができる。そこでは、右肩上がりの経済や行政主導の地域振興、 補助金への依存などが当然視されていた。しかし、1990年代以降、グローバル化する経済の下で、 こうした考え方は根本的に転換を迫られている。農山村における地域振興目的の第三セクターが 直面している困難は、まさにその現れである。この問題を先送りすることは、もはや許されない。 その場合に、本研究が分析したPFIは、新しい行政手法として現状を改革していく1つの 手がかりになると考えられる。 |