氏   名
ささき よしひろ
佐々木 栄洋
本籍(国籍)
岩手県
学位の種類
博士(工学)
学位記番号
工 第 12 号
学位授与年月日
平成 14年 3月 23日
学位授与の要件
学位規則第4条第2項該当 論文博士
研究科及び専攻
工学研究科 生産開発工学専攻
学位論文題目
津波常襲地域における持続可能な地区デザインに関する研究
論文の内容の要旨

 近地地震津波災害は、地震発生から数分で津波が広範囲に来襲するため人命を脅かす壊滅 的な被害を生む可能性が高く、その防災対策としては、環境の安全性を考慮した土地利用計画が 最も有効な方法の一つとされている。しかし、津波常襲地域の多くは、過疎問題を抱えた規模の 小さな町村であり、都市計画を策定していないことも多く、防災型まちづくりに関する情報は 少ない。また、被災復興後の生活環境は、住民にとって被災前の面影がほとんどない急激な 変化を伴う環境が創出される場合もある。さらに、津波防災対策と津波常襲地域の土地利用計画等の まちづくりとの関係は明らかにされておらず、津波防災を考慮したまちづくりを実践するための 研究や提言は少ない。

 そこで、本論文では、津波災害の危険性が高い海岸線沿いの低地における宅地化の進行、 津波防災対策に対する住民のコンセンサス、津波防災を考慮した土地利用を実践していくための 情報の欠如等が、津波常襲地域における緊急の課題という認識のもと、津波被災の経過年数に 着目して、明治29年三陸大津波、昭和8年三陸大津波、昭和35年チリ地震津波の被災地である 岩手県沿岸域と平成5年北海道南西沖地震最大の被災地、北海道奥尻町青苗地区を研究対象地に 選定した。そして、津波防災対策に関する分析、環境の安全性を考慮した土地利用に関する分析、 被災直後の復興計画に対する評価を通して、津波常襲地域の土地利用の課題を明確にすること、 さらに、地区計画の方針の策定及びその評価を住民参加で行うことにより、津波常襲地域の市町村、 特に都市計画未策定の町村における持続可能な地区デザインを実践するための有用な情報を 得ることを目的とした。

 本論文は3つの部分から構成される。

 1つめは、津波常襲地域の津波防災を考慮した土地利用計画の課題を、津波防災対策の史的評価、 土地利用の経年変化に着目した土地利用解析、復興計画に対する評価の3つの観点から探索し明確 にした。

 岩手県沿岸域における津波防災に関する史的研究では、はじめに、岩手県沿岸域14市町村に おける津波防災に関する情報を津波被害史、津波対策史、被災復興史という3つの観点から収集し、 津波防災に関するデータベースを構築した。つぎに、それぞれの情報の相互関係を明確にするために データベースにおいて制約、統合といったデータ操作による分析を行った。さらに、データベース化 された情報に関して史的な観点から分析を行い、津波防災の変遷を明らかにした。そして最後に、 それぞれの情報の相互関係を明確にしたことにより抽出された課題について、制約、結合といった データ操作による分析を行い、岩手県沿岸域14市町村すべてにおける津波防災上の共通課題を 探索した。

 2つめは、津波常襲地域における持続可能な地区デザインを実践するための有用な情報を、 地区計画の方針の策定とその評価より実証的に示した。

 3つめは、研究結果を受けて津波常襲地域における持続可能な地区デザインのあり方に ついて述べた。

 津波常襲地域において、災害にも強くゆとりとやすらぎのある地区環境を創出する本研究の成果は、 都市計画を策定していない津波常襲地域の町村においては、津波常襲地域のまちづくりに関連した 事業の関連性を高め、町村全域を総合的に捉えた計画の策定手法として有用な情報であり、 津波常襲地域のまちづくりの一助となることが期待され、意義があるものと思われる。