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やまぎし としひで 山岸 俊秀 |
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青森県 |
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博士(工学) |
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工 第 11 号 |
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平成 14年 3月 23日 |
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学位規則第4条第2項該当 論文博士 |
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工学研究科 物質工学専攻 | ||
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層状複水酸化物のインターカレーション特性とその工学的応用に関する研究 (Study on intercalation property and technical application of layered double hydroxide) |
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無機層状物質へのゲスト物質のインターカレーションには、ホストの層状構造を 破壊することなく層間に分子・イオンなどのゲスト種を取り込むことができるという特徴がある。これら の層状化合物としては、これまでスメクタイトなどに代表される陽イオン交換能を有する天然および合成 の粘土鉱物が多く用いられてきた。一方、これとは反対に、陰イオン交換能を有する陰イオン性粘土が あり、その代表的な化合物として、層状複水酸化物(Layered Double Hydroxide ; 以下, LDHと略記)が ある。ハイドロタルサイトに代表されるLDHは、組成式[M2+1-xM3+ x(OH)2][An-x/n・yH2O]で表される化合物の 総称である。二次元層状構造を有している点では陽イオン性粘土と変わらないが、基本層を構成している 二価の金属イオンの一部を三価の金属イオンによって置換することにより、基本層を正に荷電させ、陰イオン 交換能を持たせた陰イオン性粘土といえる。LDHのユニークな性質として"熱分解-再水和反応"(再構築反応) が知られている。これはLDHを熱処理して得られる熱分解物を水中に添加すると、共存する陰イオンと 水分子を取り込んで、再びLDH構造を形成する反応である。 本論文では、このLDHの"熱分解-再水和反応"を利用し、有機および無機陰イオンの分離・回収・ 濃縮、有害陰イオンの除去・固定化ならびに層間化合物の機能化を検討し、ホスト-ゲストおよび ゲスト-ゲスト相互作用を明らかにすることを目的に検討を行った。 第1章では、緒論として本研究の背景、層状化合物の概略、LDHの性質、研究例および本研究の 目的を述べた。 第2章では、LDHの合成および熱分解-再水和反応に基づく無機陰イオンのインターカレーション 特性として、種々の二価金属イオンとAL3+Mを用いてLDHの合成を試み、熱分解-再水和反応が進行 するかどうかの検証を行った。地球温暖化の原因のひとつと考えられているCO2の回収・固定化を 目指し、炭酸イオンの取り込み挙動を調べ、Mg-Al系およびZn-Al系では炭酸イオンの繰り返し取り込み が可能であることを明らかにした。また、有害陰イオンとして金属オキソ酸イオンの取り込み量を定量的 に調べるとともに、オキソ酸/LDH生成物の熱処理による固定化について検討した。その結果、熱処理に よって重金属オキソ酸イオンをMgO相に閉じこめたり、酸化物としてSpinel相に固溶させることにより、 安定に固定化することが可能となった。 第3章では、LDHの熱分解-再水和反応による有機化合物のインターカレーション特性として、 炭素数2~6個の脂肪族モノおよびジカルボン酸イオンの取り込み量を定量的に調べ、ゲスト陰イオン の構造・サイズ・取り込み量と固体生成物の構造との関連および取り込み量におよぼすpHの影響を 明らかにした。取り込み量が少ない場合には、モノ、ジいずれのカルボン酸イオンも基本層に対し 水平に取り込まれたが、取り込み量の増加とともにモノカルボン酸イオンは基本層に対して二分子層を 形成し垂直に取り込まれるのに対し、ジカルボン酸は極性基を上下にして一分子層を形成して取り 込まれることが明らかとなった。カルボン酸イオンの取り込みのメカニズムとしては、周囲の条件に よる影響を受けない同型置換による正電荷の発生と、周囲の影響(溶液のpH)を受けるLDH表面に存在 する-OH基の正または負電荷の発生、および再水和反応によって生成する水酸化物イオンとの取り込み 競走が複合的に起こるものと考えた。二種類のLDH熱分解物による芳香族スルホン酸イオンの取り込み 挙動を調べることにより、基本層の構成元素の違いによる影響を明らかにすることができた。一般的な キレート試薬であるエチレンジアミン四酢酸とその金属錯イオンの吸着等温線から、難処理COD成分で あるキレート試薬を沈殿・除去することが可能となった。この反応を利用した機能性材料の合成や新機能 の発現など新たな展開の試みとしてLDHの層間に抗菌性物質であるヒノキチオールを挿入した層状複水 酸化物複合体を合成し、徐放性をもつ抗菌性能を確認した。 第4章では、層状複水酸化物/多孔質シリカ複合体の合成とそのインターカレーションとして、 LDHを他の物質と複合化することにより取り扱いを容易にするとともに、インターカレーション機能を 向上させるためシリカ多孔体およびクリストバトル岩との複合化を試み、イオン性染料の取り込み特性を 検討した。多孔体の細孔内に金属イオンを含浸させたのちにLDHを複合化することにより、SiO2細孔に LDHを均一に分散した複合体を得ることができ、取り扱いを容易にすることができた。取り込み量は熱 分解物の単位重量あたりで比較すると複合体の方が2~3倍大きくなることを明らかにした。 第5章では、上記各章の結果を総括し、まとめとした。 |