氏   名
ささき たかひろ
佐々木 貴弘
本籍(国籍)
岩手県
学位の種類
博士(工学)
学位記番号
工博 第 63 号
学位授与年月日
平成 14年 3月 23日
学位授与の要件
学位規則第4条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻
工学研究科 生産開発工学専攻
学位論文題目
多元的評価主体による里地景観のイメージ構造に関する研究
(Research on the Image Structure of Satochi-Landscape on Plural Standpoints.)
論文の内容の要旨

 1980年,国際自然保護連合(IUCN)が発表した「持続可能な発展」の概念は, 地球に住む一生物の義務として,自然環境と調和したライフスタイルをクローズ アップさせた。そのような背景にあって,わが国において注目されつつある地域 がある。長い歴史のなか,日本人の生活に密接に結びついて親しまれてきた里地 である。里地は,集落に田圃里山が一体となって形成されている空間であり,人 と自然とが包括された総合的環境である。山林が多く平地の少ない地形的特徴を 持つわが国において,田圃里山が一体となった集住形態は,自然を愛し自然と暮 らす日本人の生活文化の原点である。しかし,現在,里地は高度成長期を境に多 くが開発の波にさらされており,自然環境の荒廃や生活様式の変更など多くの問 題が顕在化するなか,日本人の原風景ともいうべき「里地景観」が危機に瀕して いる状況にある。

 そこで本研究は,岩手県全域における里地地域の景観形成方針の現状を把握す るとともに,西根町と軽米町を対象とした事例調査より,定住者・転出者・来訪 者の3主体の里地景観のイメージ構造の差異を明確にすることにより,日本人の 原風景である里地景観の保全と創造に関し有用な情報を得ることを目的とした。

 本論文は,5つの章から構成されている。

 第1章「序論」では,研究の背景と目的,意義,枠組み,構成など,本論文の 概要について記述した。また,里地についての概念を述べるとともに,本研究に おける里地の定義を明示した。

 第2章「里地における景観形成基本計画の分析−岩手県の里地型市町村を対象 として−」では,景観形成に先進的な取り組みを見せる岩手県全市町村を対象と して,里地自然地域に位置する市町村を里地型市町村として定義し,その景観形 成基本計画についての分析を行った。分析項目は,1)景観基礎調査について,2) 景観形成基本目標について,3)景観形成施策について,4)景観形成推進方策につ いての4項目とし,景観基礎調査や景観基本目標の設定が行われているのか,身 近な雑木林や棚田などを含む里地の自然環境や風土文化を生かした里地らしさを 表現する景観として魅力的な施策は策定されているのか,景観推進方策について はどうであるのかについて,里地型市町村の景観形成基本計画の実態の把握と課 題の探索を行った。

 第3章「里地景観のイメージ把握モデルの提示−ローカルイメージのキュー ビックモデル−」では,里地景観のイメージ構造の特徴を際立たせ把握するため の評価分析モデルとして,定住者・転出者・来訪者の多元的評価主体によるロー カルイメージのキュービックモデルを提示した。また,その検証分析として,岩 手県軽米町と西根町を対象とした調査を行った。その結果,定住者・転出者・来 訪者のイメージ構造の差異が明らかとなり,定住者のみのイメージと比較して, より豊かで開かれた里地景観のイメージを示すことができた。また,ローカルイ メージのキュービックモデルについて,同モデルが多様なイメージで構成されて いることを検証できたとともに,その有用性を確認することができた。

 第4章「里地景観のイメージ構造について」では,多元的・多面的な視点によ るイメージ論を絡めた里地景観の定量的な評価を行った。そのため,岩手県西根 町を対象として,評価主体にはローカルイメージのキュービックモデルの概念に 基づき定住者・転出者・来訪者を選定し,意味的イメージ・空間的イメージ・視 覚的イメージの3調査を行った。

 その結果,言語記述調査より,里地の原風景として自然と一体化した生活を表 す要素や自然と密着した幼少期の遊びに関すると思われる要素を抽出することが できた。また,空間領域イメージ調査より,定住者のイメージでは,ムラとヤマ の領域の一体性が薄れてきていることが明らかになった。来訪者のイメージは, 幹線道路沿いの市街地以外はほとんど山林で占められており,定住者のイメージ との間に大きなギャップが見られた。視覚的イメージ調査では,都市的な景観に 対する定住者の肯定的な姿勢と来訪者の否定的な姿勢が対照的であり,定住者の 都市化指向と来訪者の環境保全指向が明確に表れていた。

 以上より,定住者・転出者・来訪者のイメージ構造の差異を明確に把握すること ができた。

 第5章「結論」では,本論文により得られた主な結果について示した。また, これまでの本論の成果を踏まえて,里地景観の保全と創造のあり方について提言 を行った。