氏   名
SHI XIAODONG
史 暁東
本籍(国籍)
中国
学位の種類
博士(工学)
学位記番号
工博 第 58 号
学位授与年月日
平成 14年 3月 23日
学位授与の要件
学位規則第4条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻
工学研究科 物質工学専攻
学位論文題目
金属とゴムとの直接加硫接着に関する研究
論文の内容の要旨

 現在、ゴム製品の多くは、金属、繊維、セラミックスおよびプラスチックなどと複合化し て使用されているが、この複合化技術の一つに接着技術がある。タイヤ、ベルト、ホース 、電線、タイル、防振ゴムおよびその他工業部品などの多くのゴム製品が接着技術を用い て製造されており、接着はゴム工業における最も重要な生産加工技術の一つである。ゴム を金属に接着して使用する主な目的は低弾性および高強度性を有する金属材料にゴムの高 い弾性機能を付与し、互いに二律背反の関係にある柔軟性と剛性または高強度を同時に兼 備した複合材料を創造することにある。ゴム工業に限らず、接着は古くから多くの分野で 重要な加工技術であることが認識されてきたが、接着に使用される材料およびその表面特 性が多様であるため、接着現象の系統的でかつ理論的な扱いは遅れている。さらに、最近 のゴム接着における加工環境は種々の点で悪化の方向にあり、ゴム工業における接着技術 の見直しが必要な時期にある。特に、地球環境問題の一つであるオゾン層の破壊に関連し た特定フロン・1,1,1-トリクロロエタン洗浄用材が製造禁止となり、これはゴム工業にお ける接着加工の分野でも問題になっている。さらに、溶剤系接着剤の溶剤による作業環境 汚染の問題から、無公害接着剤の開発などが課題となりつつある。このような接着に対す る技術的関心が高まるなかでゴム工業における中心的な生産加工技術である接着を基礎理 論的観点からと、実用的観点から検討する必要性があると認識されてきた。

 ゴムと金属の接着には、単に接着剤を用いた架橋ゴムと金属との接着と、ゴム成形と同 時に金属と接着する加硫接着がある。そして、後者にはゴムコンパウンドと金属とを重ね 合わせプレス加硫時に両者を直接接着させる直接加硫接着法と、接着剤を金属表面に塗り 接着剤を介して接着させる間接加硫接着法とがある。しかしながら、今後益々多種多様の 用途が生まれる接着剤法(間接接着法)において、地球環境の維持、作業員の健康保持およ び生産性の向上などの観点から、直接架橋接着技術への移行はゴム工業にとって重要な課 題である。

 本研究では、金属材料とゴムとの接着において、新しい接着促進剤を開発し、接着に及ぼ す諸影響因子の検討、そしてXPSやEDSによる接着界面の解析などを行うことで、全く接着 剤を使用せずに地球環境に優しい、且つ加工プロセスの簡易化が期待できる新しい直接加 硫接着技術を提示することを目的としている。

 Mg合金は実用金属の中で最も軽量でかつ人体に無害である。しかし、腐食しやすいのが欠 点でゴムとの直接加硫接着ができるか否かについての報告はされておらず未解明のままで ある。そこで、Mg合金表面処理を施し、新しい接着促進剤2-エチルヘキサン酸Ni塩を添加 したSBR-NRブレンドゴムとの直接加硫接着を行った。その結果、Mg合金をNaOH浸漬させる ことによって強固な加硫接着体が得られた。処理温度が高くなるほど、または処理時間が 長くなるほどはく離強度及びゴム被覆率は上昇した。XPSを用いて、接着界面及び深さ方 向の元素分布を分析した結果より、非結合性のZnSの生成を抑え、ZnとNiの硫化物およびMg の酸化物を含む薄く緻密な接着補強層が形成したと推定される。この補強層の形成が高 い接着性に帰因していると考えられる。また、この直接加硫接着はゴムの配合因子に影響 を受け、酸化亜鉛、硫黄配合量の増加にともない、接着物のはく離強度が増大し、一定の 配合量以上になると、100%のゴム被覆率でゴム凝集破壊となる。これはゴムの過加硫によ る引裂強度の減少によるものと考えられる。接着促進剤有機酸Ni塩の添加効果を検討した 結果、2-エチルヘキサン酸Ni塩の添加量が増加するのにともない、加硫接着物のはく離強 度が大幅に増大し、XPSの測定によって接着界面からより深いところまでNi,SおよびZnの 存在が確認され、加硫接着に不可欠な接着補強層がより厚くなることと推定される。また 、2-エチルヘキサン酸Ni塩の添加によってゴムの加硫が促進されると同時に接着補強層を 構成する活性なNiの硫化物の生成も進められると考えられる。

 亜鉛めっきスチールコードは主にコンベアベルトの製造に応用されており、従来のコバル ト塩を添加する加硫接着法においては、耐水性の問題がある。そこで、この接着において 新しい接着促進剤である有機酸Ni塩の添加効果を検討した。これにより、有機酸のカルボ キシル基と隣接しているC原子上にアルキル置換基をもつ構造を有する有機酸Ni塩のみが 加硫接着に有効であることが明らかとなった。また、加硫促進剤種類の影響を検討した結 果、過酸化物加硫系や無硫黄加硫系では全く接着しないが、硫黄加硫系を使用したときの み接着し、ゴム層の凝集破壊を生じるほどの接着力を示した。更に、従来の有機酸コバル ト塩を添加した場合より、2-エチルヘキサン酸Niを添加した接着物の耐水性が大幅に向上 した。

 本研究によって新しい接着促進剤である2-エチルヘキサン酸Ni塩を見いだしたことで、金 属材料とゴムの直接加硫接着が可能となった。接着剤を使用せずに金属とゴムとの新たな 接着技術を確立した。