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HUANG WENZHI 黄 文植 |
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中国 |
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博士(工学) |
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工博 第 56 号 |
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平成 14年 3月 23日 |
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学位規則第4条第1項該当 課程博士 |
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工学研究科 物質工学専攻 | ||
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球状黒鉛鋳鉄と軟鋼との摩擦圧接における接合界面の金属組織学的研究 | ||
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鋳鉄と異種材料の接合は自動車産業、産業機械分野など幅広い分野で要求されている。 しかし鋳鉄の溶融溶接は極めて困難である。そこで最近、固相接合法の一種である摩擦圧接法が 取り上げられ、鋳鉄接合への適応性が検討されている。しかし、これらの研究はパイプを用いた 実験がほとんどで、中実棒に関する研究は見あたらない。 摩擦圧接とは、圧接しようとする2つの素材を接触させ、加圧しながら接触面に相対運動を起こさせ、 発生する摩擦熱によって接触面の近傍を加熱して行う圧接法である。他の溶接法と比較すると、1)異種金属の 接合が可能である、2)圧接時間が短く、作業能率が高い、などの優れた特徴を持っている。 そこで本研究では、今までほとんど研究されていない鋳鉄と異種材料の中実棒の摩擦圧接適応性を 試みた。用いた材料は、鋳鉄には最も強度の高い球状黒鉛鋳鉄(FCD)を選び、相手側材料としては実用的に 最も興味の持たれる軟鋼(S20C)を選んだ。摩擦圧接条件、圧接部の金属組織及び機械的性質、この三者の 関係を明らかにするとともに、摩擦圧接過程と接合強さを支配する主要因子を解明し、接合技術の確立を 目的とする。特に、鋳鉄の基地に存在する黒鉛の摩擦圧接過程での挙動を明らかにした。 まず、球状黒鉛鋳鉄と軟鋼との摩擦圧接を行い組織観察を行った結果、継手接合面のFCD側に 回転中心の方が厚く外周が薄い円盤形状の異相が観察された。この異相は鋳鉄の基地に存在する球状黒鉛が 摩擦により片状黒鉛のように変形して生成した組織で「黒鉛変形層」と定義する。黒鉛変形層が接合面で 占める面積率を「黒鉛変形層面積率」と定義し、黒鉛変形層面積率と引張強さとの関係を調べた結果、 黒鉛変形層面積率が小さいほど引張強さが大きいことが分かった。従って、黒鉛変形層を抑制することが 鋳鉄と軟鋼との摩擦圧接で最も重要な課題であることを明らかになった。 黒鉛変形層を完全に抑制するためには黒鉛変形層の生成機構を調べることが極めて重要であると思われ、 黒鉛変形層の生成機構を詳しく調べた。その結果、黒鉛変形層は摩擦が始まる初期過程でFCD側摩擦面近傍の 回転中心からある距離離れた個所が掘られて生成し、摩擦過程で中央が厚く、外周が薄い円盤形状に 生成することが分かった。また黒鉛変形層の形状は摩擦圧接条件により大きく影響されることも 明らかになった。 黒鉛変形層の生成機構に基づいてその抑制を摩擦圧説条件及び試験片形状の両方面で検討を行った。 摩擦圧接条件は継手の機械的性質に影響が大きいと言われているアプセット条件を変化し、試験片形状は FCDもしくはS20Cの摩擦面に予め開先加工を施し実験を行った。その結果、アプセット条件を変化する 方法は黒鉛変形層の抑制には効果があるものの完全に無くすことができなかったが、試験片の摩擦面に 開先加工を施す方法は黒鉛変形層の抑制に極めて効果が大きく、開先角度αが大きくなるにつれて 黒鉛変形層も小さくなり、αが8°以上の場合は黒鉛変形層は完全に抑制された。上記の両方法による 摩擦圧接過程を調べ、黒鉛変形層抑制機構を模式図で示した。 黒鉛変形層を抑制した継手の引張強さは極めて高く、引張実験でFCD母材破断となっており、 チルとマルテンサイトの存在しない健全な圧接継手を得ることができた。 上述のように、球状黒鉛鋳鉄と軟鋼との中実棒の摩擦圧接において、球状黒鉛鋳鉄の基地に 存在する球状黒鉛が摩擦により変形して生成した黒鉛変形層が継手の機械的性質低下の原因である ことがわかる。黒鉛変形層は球状黒鉛鋳鉄だけではなくて、全ての鋳鉄の摩擦圧接における共通の 問題である。従って、黒鉛変形層を抑制したことにより鋳鉄摩擦圧接の最も大きい支障がなくなり、 機械的性質の優れた健全な継手を得ることができ、今後益々この接合法の適応が拡大されるものと 思われる。 |