氏   名
かまだ こういち
鎌田 公一
本籍(国籍)
岩手県
学位の種類
博士(工学)
学位記番号
工博 第 55 号
学位授与年月日
平成 14年 3月 23日
学位授与の要件
学位規則第4条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻
工学研究科 物質工学専攻
学位論文題目
焼結ステンレス鋼の液相焼結に関する基礎的研究
論文の内容の要旨

 ステンレス鋼は優れた機械的性質、耐熱および耐食性を有することから、機械構造用部品 をはじめ建築用部材としても広く用いられている。特に表面処理無しで良好な耐食性と機 械的性質を両立しており、かつ比較的低コストであり、鉄鋼材料としては他に類を見ない。 一方で、この鋼種は機械加工性における大きなファクターである熱伝導性が低く、さらに加 工硬化性や靱性が大きいことから、未だに切削、研削加工において、難削材の代表的な鋼種 となっている。このため、小型複雑形状部品の製造においては、その加工コストは高くなる 傾向にある。

 そこで、ネットまたはニア・ネット・シェイプ加工を特徴の一つとする粉末冶金技術の導入 による本鋼種の焼結化が検討され、実用化されている。しかし、焼結ステンレス鋼の現状は、 材料内部に存在する気孔(ポア)により各種物性は溶製材に比べ低く、その用途は限られている。 特に耐食性は溶製材と直接比較できない状況である。これら問題点の解決には焼結ステンレス鋼の 高密度化が有効と考えられ、その手法として特殊な設備を用いず従来の焼結設備をそのまま活用 できる液相焼結法がある。液相焼結とは焼結過程で液相を生成させ、焼結を促進する活性化焼結 の一つである。

 これまで、焼結ステンレス鋼の液相焼結に関する研究は、一部の鋼種(主にオーステナイト系) に限られており、さらにその緻密化機構を詳細に検討したものは少ない。また、液相焼結は 緻密化による大きな収縮を伴うが、製品の寸法精度や後処理に直接悪影響を及ぼす変形挙動 およびその制御に関する研究はほとんどない。

 そこで本研究は、オーステナイト系、フェライト系および析出硬化系の各ステンレス鋼粉末に 液相生成元素を添加し、金型成形を用いた液相焼結法による機械的性質および耐食性への影響 および緻密化機構を明らかにした。また、液相焼結による収縮変形挙動も詳細に検討・考察した。 なお、添加した液相生成元素は、各々マトリックスの分散強化または固溶強化が期待される 硼素(B)および珪素(Si)を用いた。

 オーステナイト系焼結ステンレス鋼(P/M SUS304L)では、BおよびSi添加により液相焼結 することで強度、延性および耐食性とも大きく向上(400MPa, 30%以上, 溶製材の6〜10倍) することがわかった。しかし、B単独添加では微量添加で非常に効果があるが、その 最適焼結温度条件は狭いことも判明した。Cu単独添加では、Cu融液による材料の高密度化 とともに、機械的性質においては高延性化が大きな特徴であった。0.5〜2.0mass%の添加量で いずれも溶製ステンレス鋼に匹敵する伸び(50%以上)が得られた。ただし、最適焼結温度は 1650K以上と比較的高い温度が必要であった。その一方で、BとSiの複合添加は焼結温度の 低温下(100〜150K)が可能で、その最適温度範囲もB単独添加に比べ広いことから、この 添加方法は機械的性質の改善のほか、実操業上も非常に有効であることがわかった。Si添加に よりマトリックスは二相化(γ+α)し、この場合、緻密は1)Siの固相拡散によるα化と2)B添加に よる硼化物とマトリックスとの共晶液相の生成の2段階で進行することが明らかとなった。

 フェライト系焼結ステンレス鋼(P/M SUS430L)および析出硬化系焼結ステンレス鋼 (P/M SUS630)の液相焼結の緻密化機構は、昇温過程で合金元素の相違による化合物の生成等が 認められたものの、最終的にはB添加による硼化物とマトリックスとの共晶液相の生成により 緻密化することが明らかとなった。しかし、P/M SUS430L鋼の場合、強度は溶製材に匹敵 する値(500MPa 以上)が得られたものの、結晶粒成長と粒界析出した硼化物のため、延性は 改善されなかった。特にSiとの複合添加では、Siの固溶強化によるマトリックス脆化も加わり、 延性は著しく低下した。また、P/M SUS630鋼の場合、BとSiの複合添加はB 単独添加に比べ、 約50K低い焼結温度で高強度化した。これはSiによるマトリックスの固溶強化によるものであるが、 過剰Si添加(2mass%以上)は組織をδ-フェライト単一相化させ、さらに粒界析出した硼化物のため 著しい脆化を招いた。BおよびSi添加量を最適化(0.2mass%B+1mass%Si)することで、溶製材に 匹敵する強度(1200MPa 以上)および硬度(43HRC以上)を示すP/M SUS630鋼が得られることが わかった。

 上記のように液相焼結することで、焼結密度はいずれの鋼種も95%以上に達することが わかったが、緻密化に伴う収縮変形挙動について、P/M SUS304L鋼について検討したところ、 B単独添加では緻密化とともに大きく変形することが判明し、成形圧力の上昇によりその値は 低減するものの、従来の固相焼結ステンレス鋼の2倍以上の変形率になることがわかった。一方、 BとSiの複合添加の場合、緻密化してもその変形率は固相焼結ステンレス鋼と同程度の0.4%と なることが明らかとなった。その結果を基に添加元素の違いによる変形機構を模式図に示し、 緻密化機構と関連させ考察した。

 以上より、焼結ステンレス鋼の液相焼結による高性能化技術について、その最適製造条件を 示すことができ、さらにこれまでネックであった緻密化に伴う変形(不均一収縮)についても、 一つの制御方法を提案することができた。今後この研究成果の応用により、焼結ステンレス鋼の 更なる用途拡大が期待される。