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いたばし さとし 板橋 賢 |
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宮城県 |
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博士(工学) |
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工博 第 54 号 |
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平成 14年 3月 23日 |
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学位規則第4条第1項該当 課程博士 |
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工学研究科 物質工学専攻 | ||
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起電力法によるエレクトロニクス材料の熱力学的研究 | ||
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近年、金属の製錬方法、素材製造方法、リサイクルプロセスにおける経験的知識に化学熱 力学的な裏づけを与え、体系を整えた理論にすることに多くの努力が傾けられてきた。こ のような理論により現在行われている金属の製錬法、素材製造法、リサイクルプロセスを 一段と深い立場から理解し、利点、欠点を明らかにし、より良い条件を知ることができる 。一方、エレクトロニクス材料の研究開発は、高性能、高品質や新たな機能を求め、従来 の2元合金から3元系以上の多元合金を対象とするようになっている。使用される元素の多 くは量産金属以外の希少な元素であり、利用の拡大から、将来それらの元素の安定な供給 が課題として挙げられる。また、不純物を制御することが直接材料の品質、性能に大きな 影響を及ぼす。これらのことから、製錬、精製、素材製造、リサイクルの各分野の更なる 発展と効率化が期待されている。 現在、化学熱力学や状態図に基づいた平衡論的な解析手法が現象解明や新プロセスの構築 に大きな威力を発揮している。従来と異なる素材製造法、不純物の除去方法、エレクトロ ニクス材料の分野で特に要請が強いあらゆる金属の高純度化と精製、新しい金属の製造、 リサイクルの方法を考えるにあたっては、活量や相互作用母係数などの化学熱力学の基礎 数値を用いた考察は特にゆるがせにできないものとなりつつある。溶融合金の構造に関す る理論的研究においてもこれらの基礎数値は欠かせない。しかし、熱力学的手法を適用す るうえで、化学熱力学による考察を支える製造にかかわる物質系の各種基礎データや状態 図は、2元合金については種々の元素の組み合わせにより測定されているが、3元系以上の 多元系では2元系に比べ極端に不足しており、多元合金の熱力学の検討、考察に支障をき たしている。 そこで、本論文では、理論的には溶融合金の構造に関する情報の一端として、工業的には 金属製錬、素材製造、リサイクルプロセスの考察に有用な基礎的データとして、エレクト ロニクス材料の構成金属として重要なインジウムを主体にしたIn系溶融3元合金について 全組成範囲のインジウムの活量を系統的に測定し、その挙動を体系的に解明した。また、 エレクトロニクス材料の性能の向上には高純度の金属が必要であり、データの欠落してい る溶融Bi-Pb系、Bi-Pb-X系希薄合金並びに溶融Sb-Pb系、Sb-Pb-Y系希薄合金について、金 属精製の検討に役立つ相互作用母係数を測定し、周期表に従い系統的に検討した。 以下に本論文の各章の内容を要約して述べる。 第1章は緒論であり、本研究を行った背景と本研究の目的、意義、活量測定についての従 来の研究報告について述べた。 第2章では本研究の実験に用いた測定方法であるジルコニア固定電解質、溶融塩化物電解 質を用いた起電力法を合金融体へ適用した場合の測定原理、特徴、適用性についてまとめ 、起電力法の利点および問題点について検討した。 第3章では金属製錬、素材製造、リサイクルプロセスの基礎、また溶融合金の性質を知る 目的で、エレクトロニクス材料として重要な元素であるインジウムを主体とした溶融In-Sn 系2元合金と溶融In系3元合金について、ジルコニア固定電解質を用いた起電力法により 全組成範囲におけるインジウムの活量の測定結果について述べた。また、各合金系につい て等活量曲線、および擬2元系の活量を考察し、活量の偏倚を各3元系を構成する2元系の 状態図により定性的に検討した。 第4章では第3章で得られた本研究の溶融In系3元合金の全組成範囲の活量測定結果に既報 のいくつかのIn系合金の活量を加え、3元系のうち第1元素をインジウムとし第2元素をス ズ、アンチモン、ビルマス、テルルにそれぞれ固定して周期律表の同族、同周期上にある 第3元素による活量への寄与の違いを比較し、体系的に検討した。また、3元合金の構成元 素間の電気陰性度と原子半径の差および状態図と活量の偏倚の関連を検討した。 第5章では金属精錬の検討に有用な溶融合金の熱力学的性質を知る目的で、溶融塩化物電 解質を用いた起電力法によりBi基溶融3元希薄合金の鉛に対する第3元素の相互作用母係数 を測定した結果について述べた。 第6章では第5章と同様に溶融塩電解質を用いた起電力法により、Sb基溶融3元希薄合金の 鉛に対する各第3元素の相互作用母係数を測定した結果について述べた。 第7章では第5章、第6章で得られたBi基およびSb基溶融3元希薄合金の鉛の相互作用母係数 の測定結果から、第3元素による相互作用母係数への寄与の違いを周期律表上の周期性に 関して各元素との関連について体系的に検討した。また、相互作用母係数について状態図 により定性的に検討した。 第8章は結論であり、本研究で得られた結果を総括した。 |