氏   名
Kitatsuji,Masafumi
北 辻 政 文
本籍(国籍)
宮城県
学位の種類
博士(農学)
学位記番号
連論 第58号
学位授与年月日
平成13年3月23日
学位授与の要件
学位規則第4条第2項該当
学位論文題目
ごみ溶融スラグのコンクリート材料への適用に関する研究
( A Study on the Utilization of Melting Slag from Municipal Solid Waste as Concrete Materials )
論文の内容の要旨

 20世紀の産業の発達はわれわれに豊かな生活を与えたが,反面自然破壊と廃棄物の増加をもたらし,自然の回復能力を超える環境破壊が進み,環境問題はわれわれが生きていく限り避けて通れない問題となっている。とくに廃棄物の減量,リサイクルを含めた廃棄物の適正処理,すなわち「使い捨て社会から循環社会への転換」は,環境問題を考える上できわめて重要な課題となっている。本研究は,廃棄物を資源として有効利用することにより,限りある資源を将来の世代のために残すためのひとつの提言である。

 現在,廃棄物の大部分は焼却し,焼却残渣(灰)として埋立処分されている。しかし,このことは埋立処分場の逼迫,環境ホルモン物質やダイオキシン等の発生等深刻な社会問題となっている。このような状況から廃棄物問題に対処する方法の一つとして,廃棄物あるいはその焼却灰を千数百度の高温で溶融し,急冷却固化してごみ溶融スラグ(以下スラグという)を製造する技術が近年開発された。製造された溶融スラグはガラス質で硬く,建設材料への再資源化の期待が高まっている。また建設業界では良質なコンクリート用骨材の枯渇が問題となっており,細骨材の不足はとくに深刻な状況にある。

 本研究の第一の目的は骨材不足に対応する一つの方法として,スラグのコンクリート用細骨材としての利用の可能性について検討することである。スラグが細骨材として利用できれば,廃棄物を原料とすることから生活環境の保全のみならず社会生活が続く限り地域に密着し恒久的に供給されると考えられるため,骨材不足に悩む建設業界にとっても極めて有益である。

 本研究の第二の目的はスラグ微粉末のコンクリート用混和材,すなわちセメント代替材料としての利用の可能性について検討することである。スラグが混和材として利用できれば,細骨材のみの利用に比べ建設資材としての価値は数段高くなると考えられる。

 本研究の結果を要約すると以下のようになる。

1.ごみ溶融スラグのコンクリート用細骨材としての利用に関する検討

 製造方法の異なる4種類のスラグについて,コンクリート用細骨材としての材料評価を行い,ごみ溶融スラグをコンクリート用細骨材として利用するための品質および使用方法について,当面のガイドラインとして以下のように提案をした。

(1) スラグの安全性を確保するため環境庁告示46号法による重金属の溶出量が土壌基準値以下であること。
(2) コンクリートの汚れ防止のために金属鉄含有量が1%以下になるよう磁選機により鉄分を除去すること。
(3) 脆弱部分(亀裂)の低減と粒度調整のために概ね2。5mm以下となるよう破砕処理すること。
(4) 金属アルミニウムに起因するコンクリートの膨張低減のためにモルタルの膨張試験値(JSCE-F522-1994)が2%以下であること。
(5 )ブリーディングの低減のために天然砂と混合して使用すること。その場合の置換率は概ね50%以下とすること。

 さらにこの提案に基づき,実証試験の一環としてコンクリート製品工場の実機を用いて流し込み法による高強度鉄筋コンクリート製品を作製し建設現場で施工を行い,スラグが細骨材として利用できることを確認した。

2.ごみ溶融スラグ微粉末のコンクリート用混和材としての利用に関する検討

 コークスベッド方式ごみ溶融スラグをボールミルで微粉砕し,コンクリート用混和材としての利用可能性について実験的に検討した。その結果,スラグはR2O量がやや多いもののJISに認定されている高炉スラグと類似しており,高炉スラグと同等の特性(活性度,フロー値,安定性,凝結時間,初期水和熱,強度,耐凍性)を有することが明らかとなった。さらに土質改良材としての利用の可能性について検討した結果においてもスラグは高炉スラグと類似した固化能力を示し,配合条件によっては普通セメントや生石灰と同程度の強度を発現することが判った。このためごみ溶融スラグ微粉末がセメント代替材料として利用できることが明らかとなった。

 以上のことより,農業土木技術をはじめとした建設技術が廃棄物の再利用に大きな貢献をすることを証明することができた。