氏   名
Ogata,Tadashi
尾 形  正
本籍(国籍)
福島県
学位の種類
博士(農学)
学位記番号
連論 第56号
学位授与年月日
平成13年3月23日
学位授与の要件
学位規則第4条第2項該当
学位論文題目
リンゴ輪紋病の研究,特に病原菌の分類,発生生態および病害防除
(Studies on Apple Ring Rot Caused by Botryosphaeria spp.
with Emphasis on Classification of the Causal Fungi,
Epidemiology, and Disease Control)
論文の内容の要旨

 リンゴ輪紋病の病原菌の分類,発生生態および防除法に関して研究を実施した。本病による果実発病は輪紋症状を特徴とし収穫期が近づくと急激に発病が増加する。また枝梢部発病ではいぼの形成を伴う。

 リンゴおよびその他の落葉果樹から分離したBotryosphaeria spp.は宿主上の病徴,形態,培養性状および核内rDNA ITS領域の塩基配列の比較解析により3つのグループに類別できた。このうち枝梢部発病によっていぼを形成するリンゴ輪紋病菌は,米国でリンゴにwhiterotを起こすB.dothideaと同じグループに類別され,所属をB.dothideaにすべきものと考えられた。

 病原菌の生育はPDA平板上において25℃,pH4.9~5.8で最も良好であり,分生子殻および分生子は暗黒下では形成せず,白色蛍光灯およびBLB蛍光灯の24時間照明条件下では形成が認められた。また,寒天培地に形成された分生子殻および分生子の耐熱性は50℃60分まで生存が認められたが,52℃30分あるいは54℃以上では5分で死滅した。

 病原菌分生子飛散消長調査に使用されるスライドグラスには従来のグリセリン・ニカワの塗布に替え,両面テープの貼付と染色剤の併用は分生子の計数を容易にした。この利用によって罹病枝からの分生子飛散には最低気温が約16℃以上に推移する時期に,0.5mm以上の降雨が1時間以上持続することが重要であることが明らかになった。しかし,過度の降水量は分生子の流亡を生じるため総降水量がリンゴ果面への有効分散に対してマイナス要因になることがある。

 リンゴ輪紋病菌に対して枝梢部の感受性は6月中旬~7月上中旬頃に最も高かったが,品種間差異が認められ,‘王林’が最も感受性が高く,‘ふじ’が次いだ。‘スターキング・デリシャス’や‘陽光’はやや抵抗性で,潜伏期間も長い傾向が認められた。一方,果実感受性変化は果実表面の果点や毛茸痕の形成過程と密接に関係し,肥大生長に伴い5月下旬~6月上旬から高まり,梅雨期に高く推移した。その後品種によって異なったが,概ね7月中旬から8月中・下旬には低下した。また,果実感受性は品種間差異が認められ‘王林’および‘ふじ’で高く,‘スターキング・デリシャス’がこれに次いで高く,‘つがる’や‘陽光’はかなり抵抗性であった。さらに,本研究によって果実への感染は従来果点が主な感染部位とされていたが,毛茸痕も侵入門戸になることが初めて明らかになった。

 果実感染に好適な気象条件について検討したところ,最低気温および相対湿度が重要で,また降雨期間中の総降水量も影響することが明らかになった。本病菌は果実感染後菌糸は果実の表皮下約100μm~600μmの位置の細胞間隔に認められ,それらの菌糸は太さ約17~19μmで,普通の菌糸(約2.6μm)に比較し著しく太く濃色であった。これは耐久組織の形態で一種の休止感染状態にあるものと考えられた。また,感染果実の発病は果実の全糖が8%以上に上昇し,またリンゴ酸が0.15%以下並びに全ポリフェノール含量0.3%以下に低下する9月上旬頃から認められるようになった。

 リンゴ輪紋病に対する防除法を検討した。果実発病の予防には4-12式ボルドー液の散布が最も安定した高い防除効果を示し,2-12式ボルドー液,キャプタン・有機銅水和剤,アゾキシストロビン10フロアブル,クレソキシムメチルドライフロアブル,アゾキシストロビン・ジラム水和剤,ホセチル・有機銅水和剤,有機銅・TPNフロアブルおよびイミノクタジン酢酸塩・有機銅水和剤も優れた効果を示した。さらに,現在リンゴ輪紋病防除剤として使用されている殺菌剤の残効性も合わせ比較したところ,キャプタン・有機銅水和剤は散布8日後の残効性は認められたが,散布14日後の残効性は低く,4-12式ボルドー液は散布14日後でも防除効果が高く残効期間も最も長かった。

 これらの結果からリンゴ輪紋病に対して果実感受性の高い‘ふじ’を対象にした非ボルドー液防除体系を策定する場合,実用的な有機殺菌剤の残効期間を考慮し,梅雨期間を中心とする6月下旬から8月上旬までは7日~10日間隔で薬剤散布する必要がある。また,樹高による発病調査から着果部位の高い果実ほど感染発病が多いことが知られたことから,薬剤が着果部位まで十分到達できるように,樹高を現在より低くするか,あるいは現行のスピードスプレーヤーによる散布様式を改善する必要があると考えられた。