氏   名
Takahashi,Teruo
高 橋 照 夫
本籍(国籍)
岩手県
学位の種類
博士(農学)
学位記番号
連論 第54号
学位授与年月日
平成13年3月23日
学位授与の要件
学位規則第4条第2項該当
学位論文題目
リンゴ収穫の機械化に必要なステレオ視システムの開発に関する研究
( Studies on Development of Stereo Vision System Necessary for Mechanization of Apple Fruits Harvesting )
論文の内容の要旨

 本研究は,果実の自動収穫を前提にした機械化を図るため,果実とその周囲の環境に関する三次元視覚情報を入力する手段として両眼ステレオ視による計測手法を開発し,その計測システムを確立することを目的に行った.

 試作ステレオ視システムは,2台のCCDカラービデオカメラ,ノートパソコン,キャプチャPCカード,パン・ティルト式カメラ台,及びカメラ画像入力切替器で構成した.ハードウェア面に関するキャリブレーション実験で,左右のビデオカメラを個別に,レンズ収差の補正式,カメラの焦点距離と合焦距離の関係,ズーム値と焦点距離の関係,仮想レンズ中心の位置式,カメラ撮像面サイズに対するモニタ画面サイズのスケール係数を求めた.それらの諸関係と,左右カメラ光軸の交差角の補正,及び左右画像の画素単位の対応づけに留意して試作システムの距離式を校正した結果,距離誤差は,1~4.5m間でおおむね±2%の範囲に入り,機械的に十分な精度を持つことを確認した.

 本研究で新たに考案した両眼ステレオ視に関する測定原理は,探索空間内の距離断面に関する左右画像の合成像を作成し,合成像の鮮明さを検出して比較・判定することにより,その断面における物体の有無及び物体の位置と距離に関する情報を得るものである.合成像の作成は,左画像の偶数行と右画像の奇数行を交互に配列する方式を採用した.鮮明さの検出は,上下方向のRGB濃度分散を指標に用いて各画素について8方向の平均分散を求める方式で行った.本手法の基礎的性質について赤色円板を対象に実験的に検討した結果,対象物像全幅を平均分散の比較計算範囲に設定すれば,ほぼ適切な合成カラー画像と距離画像を得られることが分かった.収穫期のリンゴ園で赤色系果実を対象に本手法の検証実験を行った結果,撮影距離約2.2mで誤差が4%以内となり,果実の距離計測に適用できると判断した.

 リンゴ園果実画像におけるステレオ対応問題の対策のため,左右画像内の注目範囲をそれぞれ中央で左右半分ずつに分け,同じ側の視野同士で合成する同側視野合成の手法を検討した. その結果,左右の同側視野における特徴色の増減傾向を調べ,同側視野合成を行うことにより,偽像の発生を抑制できることが分かった.リンゴ園画像の中から果実の同順並び画像16組,重なり画像12組を選び本手法を適用した結果,視差距離断面の対応づけは,同順並び画像で±2視差刻み分以内が90%,重なり画像で80%となり,同側視野合成によって約5%の誤差範囲内で距離の推定が可能であった.

 収穫期のリンゴ園で種々の画像入力条件のもとで撮影した画像を対象に,照度,果実及び撮影の各条件と距離測定の誤差要因との関係,及びそれらが測定精度に及ぼす影響を分析した.合成画像における果実像のRGB濃度平均分散の状況を特徴別に分類した結果,変化タイプでは,頻度割合でV・U型が約75%を占め,次いでN型が15~20%であった.最小値レベルでは,200~1000の割合が70%で最も多かった.平均分散が最小になる視差距離と実距離の差では,視差刻み分で -2から1までの占める割合がほぼ90%以上となった.これらの結果より,赤色系と黄緑色系の両果実に対する試作システムの適用可能な条件範囲は,照度1~90klxのもとで逆光時を含めて果実像明度が90以上,果実像の重なり度合が0.5以内,モニタ上の果実像幅が「ふじ」で16画素以上,「王林」で26画素以上であった.その範囲で供試システムの撮影距離と距離誤差との関係を整理した結果,誤差は撮影距離1.2~3.5mで -4~2%,3.5m以上では-7~0%の範囲であった.なお,強逆光の画像に対しては本手法による処理が困難な場合が多いので,撮影段階で逆光状態を検出して補正する機能が必要である.

 本研究によるステレオ視計測法の応用として,ハンドで果実を把持するために必要な立体形状の計測と認識の方法,及び収穫マニピュレータを制御する場合へのステレオ視覚情報の利用について考察し,その有用性と課題を明かにした.

 以上のように,リンゴ園の果実収穫における距離計測に両眼ステレオ視法を活用するため,本研究で新たな測定原理と手法を考案し,計測システムの確立に必要な指針と基礎的な資料の提示を行った.実用化に向けた今後の課題として,鮮明さの指標の改善,高速処理のためのマルチプロセッサ化などが挙げられる.