氏   名
Nonaka,Kazuhisa
野 中 和 久
本籍(国籍)
秋田県
学位の種類
博士(農学)
学位記番号
連論 第52号
学位授与年月日
平成13年3月23日
学位授与の要件
学位規則第4条第2項該当
学位論文題目
寒地型牧草低水分ロ-ルベ-ルサイレ-ジの安定調製ならびに  品質評価に関する研究
(Studies on stable making of low-moisture round bale silage and evaluation of its quality)
論文の内容の要旨

 ロ-ルベ-ルラップサイレ-ジは梱包形態が運搬に適しているため、粗飼料不足の顕在化する地域では既に流通が始まっており、水分低減によるベ-ルの軽量化は不可欠な状況にある。しかしながら、これまで、ロ-ルベ-ルサイレ-ジ調製に関する報告の多くは、好気性微生物の増殖による品質劣化の危険性から水分含量50-60%台での調製を前提としており、それ以下の水分域で調製した低水分ラップサイレ-ジに関する報告は極めて少ない。また、低水分ラップサイレ-ジの流通に必要な品質評価方法は標準化されていない現状にある。本研究は、乾草調製の困難なわが国の気象条件下において、流通可能な低水分ラップサイレ-ジの安定的な調製ならびに適正な品質評価に資するための知見を得ることを目的とした。研究の成果は以下のように要約される。

 1.低水分ラップサイレ-ジの水分含量、フィルム被覆方法、フィルム色、貯蔵管理方法がサイレ-ジの品質におよぼす影響について検討した。その結果、水分20-50%の低水分原料草でもフィルム被覆を重複率50%で4層以上行えば気密性が保持でき、越冬を含む11カ月間の貯蔵であっても、好気性微生物の増殖が抑制可能であり、高品質サイレ-ジが調製できることを明らかにした。一方で、貯蔵中にフィルムが破損した場合には、破損部からの空気の侵入により、急激に過度の品温上昇が起こり、破損後約1週間でカビが発生し、給与不能になることが示された。また、ベ-ル円周面のフィルムを破損した場合の品質劣化範囲は、天頂面を破損した場合に比較して大きく、品質保持には円周面のフィルム保全が重要であることが示唆された。フィルム色とサイレ-ジ品質の関係について、黒色系および白色系フィルムで比較試験を行った結果、ベ-ル表面温度の上昇による蛋白質の熱変性は両色とも認められなかった。また、白色系フィルムは気温変動の影響を受け難く、安定的な発酵環境が維持でき、黒色系に比較して発酵が相対的に促進される傾向にあることを認めた。

 2.マメ科牧草の新しい予乾技術として開発されたフォ-レ-ジマットメ-カによる摩砕予乾法と、既存のテッダによる反転予乾法との比較を行い、摩砕予乾したアルファルファサイレ-ジの葉部残存率は、反転予乾したサイレ-ジに比較して有意に高く、雑草混入率は有意に低いことを認めた。摩砕処理がアルファルファ低水分サイレ-ジの茎部のin sacco分解率におよぼす影響について、NDFは牧草の生育時期により分解程度は異なるが、CPは最大可能分解率および有効分解率において摩砕処理区が無摩砕区を上回り、摩砕処理が第一胃内のCP分解を促進することを明らかにした。低水分ラップサイレ-ジの消化性に関しては、摩砕処理が飼料成分消化率やTDN含量に影響をおよぼすことはなく、エネルギ-の消化率および代謝率にも摩砕処理の効果が認められないことが示された。

 3.低水分ラップサイレ-ジの試料採取法および品質評価に必要な分析項目の選定に関する検討を行った。はじめに、ベ-ルからの試料採取用コアサンプラ-を試作し、その採取性を検討した結果、ベ-ル円周面のいずれの方向からでも等量の試料を採取できることを確認した。次に、低水分ラップサイレ-ジの最適試料採取位置について検討を行い、縦積み貯蔵時の東西南北面の表層それぞれ1箇所ずつからコアサンプラ-で均一に試料を採取し、分析後、それらの平均値を用いれば、ロ-ルベ-ルの水分、CP、ADFおよびNDF含量の代表値が求められることを示した。続いて、1圃場で生産された多数のサイレ-ジの中から、試料採取に用いるベ-ルの抽出個数を設定した。2haの圃場2筆から得られた低水分ラップサイレ-ジそれぞれ10個ずつの水分、CPおよびADF含量について、単純無作為抽出法で算出した結果、目標とする分析精度を達成するために必要なベ-ル抽出個数を得ることができた。引き続き、低水分ラップサイレ-ジの品質評価に用いる分析項目の選定を行った。その結果、低水分ラップサイレ-ジでは、貯蔵中の発熱に起因する結合蛋白質含量は少なく、発酵は微弱で、不良発酵の指標となる酪酸含量は僅少であることから、分析項目として、結合蛋白質および発酵品質は品質評価に対する寄与の程度が低く、低水分ラップサイレ-ジの品質評価には、一般飼料成分で必要条件が満たされるものと結論した。