氏   名
Shimazu,Jun-ichi
島 津 樹 一
本籍(国籍)
京都府
学位の種類
博士(農学)
学位記番号
連研 第176号
学位授与年月日
平成13年3月23日
学位授与の要件
学位規則第4条第1項該当
専  攻
生物資源科学専攻
学位論文題目
イネ培養細胞における体細胞分裂期相同組換えに関する研究
(Study on mitotic homologous recombination in cultured cells of rice)
論文の内容の要旨

 植物の細胞および組織培養過程において高頻度に生じるソマクローナル変異は、細胞および組織培養を用いる作物の育種には大きな障害になる一方で、育種上有用な変異源として注目されている。本研究ではソマクローナル変異の発生機構解明を目的としており、ソマクローナル変異として報告されている培養過程における体細胞分裂期相同組換えに関してイネを用いて解析を行い、減数分裂期相同組換え遺伝子RiLIM15との関係について検討した。

第1章 イネ培養細胞における体細胞分裂期相同組換えの解析

 イネ培養細胞での体細胞分裂期相同組換えの発生頻度を調べるために、培養細胞のwaxy座近傍で生じる相同染色体間相同組換えの頻度について調べた。モチ系統A58とウルチ系統のむつほまれF1種子由来のカルスを約5ヶ月間培養し、その各再分化体のR1種子胚乳のウルチ、モチ形質の分離比についてχ2検定を行った結果、期待される分離比(ウルチ:モチ=3:1)に適合しない再分化体は全体の44.2%であった。この中に、1粒を除き他は全てウルチ形質の胚乳である種子を持つものが1個体認められ、この再分化体は、Wx wxの遺伝子型の培養細胞がwaxy座近傍での相同染色体間の組換えの結果、Wx Wxとwx wxの遺伝子型をもつ娘細胞が分離し、その中のWx Wxを持つ細胞が再分化したことが示唆された。しかし、その個体で1粒のみモチの形質を示した原因は不明である。以上の結果から、イネ培養細胞でwaxy座近傍において相同組換えが生じたことが示唆された。

第2章 イネ減数分裂期特異的相同組換え遺伝子RiLIM15の培養細胞おける発現解析

 イネの培養細胞において体細胞相同組換えが認められたことから、DNA相同組換え遺伝子の関与が推察された。そこで、イネの減数分裂期特異的相同組換え遺伝子RiLIM15の培養細胞内での発現を中心に解析を行った。また、インド型イネ系統IR36より単離された同遺伝子について、その特徴に関してはほとんど知られていないためその基本的構造や発現に関する解析も同時に行った。

 サザンブロット解析の結果、RiLIM15の内部構造は、日本型、インド型イネの間において保存性が高いことが示唆された。さらに、先に単離されたIR36 RiLIM15の制限酵素地図とは異なる構造を持つRiLIM15の相同配列が、イネゲノム内においてもう1コピー存在することが示唆された。そこで、日本型イネのBAC libraryより同遺伝子の単離を試みたところ、2種類のRiLIM15遺伝子RiLIM15A、RiLIM15Bを単離することができた。これら遺伝子の塩基配列を比較したところ、これらの間でコード領域内のエクソン領域では相同性が極めて高いが(95.3%)、イントロン領域では相同性が比較的低い(76.1%)ことが明らかとなった。一方、両遺伝子の推定アミノ酸配列を比較した結果、それらの相同性は極めて高く(98.2%)、両遺伝子は機能的に類似していることが示唆された。以上の結果から、RiLIM15は機能的に類似した2つの遺伝子から構成される多重遺伝子族であることが明らかとなった。

 次に、RiLIM15遺伝子の日本型イネ系統A58の培養細胞、減数分裂期幼穂および完全展開葉での発現様式関してRT-PCR法を用いて解析を行った結果、同遺伝子は減数分裂期幼穂だけでなく、体細胞である培養細胞にも特異的に発現することが明らかとなった。また、培養細胞での同遺伝子の発現は、mRNA in situ hybridization法でも確認された。この結果より培養細胞に生じる体細胞分裂期相同組換えにRiLIM15が関係することが示唆された。一方、完全展開葉では同遺伝子の発現は認められなかった。また、培養細胞と減数分裂期幼穂においてはRiLIM15AとRiLIM15Bの発現様式に類似性が認められた。さらに、培養細胞と減数分裂期幼穂において、RiLIM15の塩基配列から推定される転写産物の長さより短いものが検出された。そこで、培養細胞と減数分裂期幼穂由来のcDNA増幅産物の塩基配列を調べたところ、欠失を持つcDNAが両組織に認められ、転写後にalternative splicingを受けていることが示唆された。これらの欠失パターンは合計8パターンあり、培養細胞と減数分裂期幼穂由来のものとでは異なることが示唆された。また、これらの欠失によりRiLIM15タンパクの推定アミノ酸配列に、欠失だけでなくフレームシフトによるアミノ酸残基の置換が生じ、アミノ酸配列が本来のものと大きく変わることが示唆された。以上の結果から、RiLIM15は減数分裂期幼穂だけでなく体細胞である培養細胞おいても特異的に発現するがそれらの発現様式が異なることが明らかとなった。