氏   名
Sato,Hideki
佐 藤 秀 樹
本籍(国籍)
秋田県
学位の種類
博士(農学)
学位記番号
連研 第173号
学位授与年月日
平成13年3月23日
学位授与の要件
学位規則第4条第1項該当
専  攻
生物資源科学専攻
学位論文題目
Lycopersicon属野生種が持つ根外植体の不定芽形成能に関する遺伝学的研究
(Genetic analysis of shoot regeneration capacity from root explants in the wild species of Lycopersicon)
論文の内容の要旨

 本研究では、Lycopersicon属野生種が持つ根外植体からの不定芽形成能に関する遺伝解析を行った。まず、高不定芽形成能を示す野生種 L.chilense PI128644と不定芽形成できない栽培品種 L.esculentum cv.強力大型東光(KOT)の戻し交雑後代 BCF集団を用いて、1遺伝子仮説の検定を行い、PCRマーカーによる連鎖地図を作成した。すなわち、KOTにPI128644を交雑して得られたFが全て野生種とほぼ等しい高不定芽形成能を示したことから、不定芽形成能は優性であると考えられた。FをKOTに戻し交雑してBCF集団が育成され、その中から自家和合性で高不定芽形成能をもつBCF-44-15番個体が選抜された。この個体を自殖してBCF-44-15番系統を育成した。この系統を用いて根外植体の不定芽形成率の分離調査を行った。その結果、次の3点が明らかにされた。(1)高不定芽形成能は優性の主働遺伝子に支配されている(主働遺伝子をRg-2とした)。RAPDマーカーを主としたPCRマーカーおよびRFLPマーカーによる連鎖分析によって、(2)Rg-2がトマトの第3染色体に座乗している。(3)Rg-2から3.2cMにPCRマーカーのクラスターが座乗している。クラスターを構成するPCRマーカーはBC以降に高不定芽形成能の選抜マーカーとして利用されている。

 次に、BCF集団について、120のRAPDプライマ-から得られたL. chilense PI128644およびL. esculentumに特異的なマ-カ-それぞれ31および24を選抜し、酸性インベルターゼ遺伝子のPCRマ-カ-を加えて、高不定芽形成能のQTL解析を行った。野生種特異的マーカ-の連鎖群が2群、栽培種特異的マーカ-の連鎖群が3群検出された。野生種特異的マ-カ-の連鎖群の一つはトマトの第3連鎖群であり、Rg-2に近接して不定芽形成に関与するLOD値が約14のQTL遺伝子座が検出された。他の一つの連鎖群にはLOD値約7のQTL遺伝子座が検出された。前者のQTL遺伝子座はRg-2を確認するものと考えられる。後者については、さらに確認する実験が必要である。栽培種特異的連鎖群の一つはLOD値が約14のQTL遺伝子座のRAPDマ-カ-と対立遺伝子の関係にあり、トマト第3染色体の一部と推定された。

 最後に、'esculentum-complex'および'peruvianum-complex'における根外植体の不定芽形成能の分布を調査した。同時に、Rg-2に最も近接したRAPDマーカーおよびその一つを変換したSCARマ-カ-の有無を検定した。その結果、'esculentum-complex'は不定芽形成能をもたず、'peruvianum-complex'では大部分の系統が不定芽形成能をもつことが分かった。一方、 'peruvianum-complex'の大部分の系統がSCARマ-カ-をもっていたことから、このSCARマ-カ-は'peruvianum-complex'に存在するRg-2の選抜マ-カ-として一般的に利用できると考えられる。L. chilenseでは、Northern accessionに属する系統において不定芽形成率に大きな変動が認められた。また、L. peruvianumでは、最北部に分布するMaranon raceにおいて低い不定芽形成率を示す系統が認められた。Egashira et al.(2000)のRAPDマーカーによる'peruvianum-complex'の遺伝的距離に基づくクラスター分析では、前記のL. chilenseおよびL. peruvianumの系統は、'peruvianum-complex'の中で他の系統と最も早くに分岐した系統であった。