氏   名
JIANG,Shiwen
蒋  時 文
本籍(国籍)
中 国
学位の種類
博士(農学)
学位記番号
連研 第170号
学位授与年月日
平成13年3月23日
学位授与の要件
学位規則第4条第1項該当
専  攻
生物生産科学専攻
学位論文題目
採卵養鶏家族経営の展開過程に関する研究
―山形県庄内地域の「地産地消」採卵養鶏を中心とした事例―
(The Development Process of Poultry Family Farm in Japan :
A Case of Shonai District of Yamagata Prefecture)
論文の内容の要旨

1、 問題の所在と課題

 日本の養鶏産業は日本の経済成長とともに、日本農業の中でも、きわめて急速な発展を遂げてきた。それは国際的にも十分競争力に耐えうる産業としての基盤を確立し、畜産業のなかでも、高い国内自給率を維持していること。また、養鶏産業を構成する養鶏企業が家族農業経営として存在し、農家の自給食糧として位置付けられて、飼育されている段階から、国民の強い消費需要に支えられ、大規模化の経営過程を経て、企業的家族経営を成立させている。現在では、さらに、養鶏企業経営として、広範に存続・発展するまでに至った。養鶏産業は養鶏企業経営によって、鶏卵生産の大宗が担われている。
 本論の課題は、こうした問題の所在視点から、養鶏を構成する養鶏企業の実態を調査し、その存続・発展過程を考察することにある。課題の解明方法について、調査対象にあたっては、鶏卵流通市場には、全国的な流通市場と地域的な流通市場とが形成されている地域に着目する。そのために、全国的に有数の米産地である東北地方庄内地域を対象とし、水稲作の複合部門として導入・展開している、養鶏家族複合経営を選定し、その養鶏部門を重視して、実態を調査し、その存続・発展過程を考察する。それらの調査事例を発展段階別養鶏家族経営としてとらえ、小規模養鶏生産の家族経営、小規模養鶏生産の家族複合経営、中規模養鶏生産の家族複合経営、中規模養鶏生産の企業的家族複合経営、そして、中大規模養鶏生産の企業的家族複合経営である。

2、 養鶏家族複合経営の構造と分析

 養鶏家族経営の構造要因として商品開発、飼育管理技術体系、作業体系、販売経路・組織、そして、企業化の方向を取り上げて考察する。
 商品開発では、いずれの経営段階においても白色卵系を主力品種にしているが、近年の褐色卵への消費者志向が強まる中で、大規模化するにしたがってそれへの対応が積極的になる。小規模ほど従来の白色卵系を主力品種として地場市場に堅実に出荷している。これは大規模になるほど、容易であり、小規模ほど対応が困難であることを示す。
 飼育管理技術体系では、小規模養鶏生産段階の殆どがケージ段数の少ない低床式鶏舎に依存し、大規模養鶏生産段階になるほど高床式やケージ段数の多い低床式鶏舎を採用し、それによって、労働効率の向上を図っている。
 これは小規模養鶏生産では、労働効率の向上が少ししか顕在化しないが、大規模養鶏生産ほぼ新しい飼育管理技術の採用によって労働効率が飛躍的に向上することを示す。
 小規模養鶏生産が新しい飼育管理技術の採用の困難な原因には、立地条件、後継者難、あるいは資金不足があげられる。
 作業体系では、小規模養鶏生産ほど採卵・給餌給水・鶏糞処理など一人ですべての作業を行わなければならなく、経営内分業の成立が大規模養鶏経営ほど可能でないことを示している。
 作業体系における経営内分業は、経営者に経営管理の徹底を必要とするという新たな問題が生じ、経営管理能力の向上が課題となっている。
 販売経路・組織については、B経営・C経営・D経営でも、庄内産直鶏卵生産者協議会に所属し、出荷販売先との提携により、地域における有利販売を確保している。
 また、飼料の共同購入によりその有利性を高めている。
 最後に、経営成果、経営効率(収益性・経済性)、あるいは経営財務の安全性については、養鶏生産規模が拡大するに応じて、経営成果と経営効率は着実に高まっている。
 しかしながら、養鶏生産規模を急速に拡大した中大規模養鶏生産の企業的家族複合経営では、経営財務の安全性は必ずしも高くはなく、今後に課題を残す。

3、 中、中大養鶏生産の企業的家族複合経営の展開過程

 中規模養鶏生産の企業的家族経営における構造要因である商品開発、飼育管理技術体系、作業体系、販売経路・組織そして企業化の方向について検討する。この経営は、経営環境に適宜に対応し、機会を逃さず積極的に技術革新に取り組んでいる。とくに販売経路・組織については地元共立社鶴岡生協との産直提携を契機に、施設の更新を図り、養鶏生産規模の拡大を可能にした。また、経営記録計算を重視し、計数管理の徹底を図ったことが経営成果と経営効率を高め、経営財務の安定性を確保している。さらにまた、後継者に恵まれ、法人化し、企業化を着実に進めている。
 中大規模養鶏生産の企業的家族複合経営における構造要因については、商品開発に特別の力を注ぎ、主力品種として白色卵系から赤卵系を大幅に取りいれ、多様な商品開発により販売市場の拡大を図っている。飼育管理技術体系では全自動低床式鶏舎を設置し、労働効率の飛躍的効率化を図っている。作業体系においては、従業員の技能に応じて、適材適所に配置し、経営者の管理能力が適切に発揮できる方策を採っている。販売経路・組織では地域流通市場のみでは供給過剰になる恐れがあり、限界であるという視点から他地域への市場開拓に積極的に対応している。経営成果と経営効率は高まってきているが、急速な設備投資により経営財務の安全性は極めて低いという問題を抱えている。

総括

 最後に養鶏生産の家族複合経営について考察してきたが、地域農業振興や環境保全型農業への関係については、鶏糞や廃鶏などの地域内資源循環の視点から考察する必要がある。これは今後の課題として残っている。
 総括として、地域鶏卵流通市場において家族経営として存続・発展する素地を持っている事実について調査事例から判明した。
 それは、養鶏家族複合経営の構造を規定する諸要因である商品開発、飼育管理技術体系、作業体系、販売経路・組織、企業化の視点から常に技術革新を持って経営管理を徹底することにその存続・発展の展開条件を築くことができるということが考察された。