氏   名
Osonoi,Makoto
小薗井 真 人
本籍(国籍)
愛知県
学位の種類
博士(農学)
学位記番号
連研 第168号
学位授与年月日
平成13年3月23日
学位授与の要件
学位規則第4条第1項該当
専  攻
生物生産科学専攻
学位論文題目
胚性幹(ES)細胞を利用した筋形成に関する研究
~特に、 骨格筋特異的細胞マーカーの作製~
(Study of myogenesis using embryonic stem (ES) cells;
production of skeletal-muscle specific cell markers.)
論文の内容の要旨

 哺乳類の発生の解析に用いられる細胞マーカーは、あらゆる発生段階で、全ての組織において、細胞レベルで容易に検出されることが必要であるとされている。ES細胞は高度な多能性を有し、遺伝子機能の解析や細胞マーカーの作製のための非常に強力なツールとなり、実際に細胞マーカーとしての条件を満たす遺伝子導入亜株が作製されている。これらの細胞マーカーは組織非特異的であるが、特定組織の発生・分化の解析や再生医学的な基礎研究には、組織特異的な細胞マーカーが有効であると考えられる。特に、骨格筋特異的細胞マーカーは、骨格筋の発生学的機能的解析に有効であるばかりでなく、骨格筋に関する再生医学的研究にも大変有効であると考えられる。

 本研究では、新たなマウスES細胞株の樹立を試み、それらの性質を確認すると共に、ES細胞株樹立のための一連の操作の確立を試みた。また、pMGN(-4k)LacZ遺伝子をES細 胞に導入することにより、骨格筋特異的細胞マーカーの作製を試み、in vitroで導入遺伝子の発現を解析した。さらに、in vitroにおける導入遺伝子発現を確認し、遺伝子導入亜株の骨格筋特異的細胞マーカーとしての有用性を示すために、キメラ胎児における導入遺伝子発現の解析により、その有効性について検討し、以下の結果を得た。

 1. 全胚盤胞培養法によって、C57BL系由来ES細胞株(OKB6-Ⅰ,OKB6-ⅡおよびONB6-Ⅲ)が分離された。核型分析の結果、これらは正倍数性を保持することが認められ、OKB6- Ⅰは雌株、OKB6-ⅡおよびONB6-Ⅲは雄株であることが示唆された。しかし、ONB6-Ⅲは2n=40の細胞の割合が低く、LIFの作用が未分化形態の維持に限られ、分離細胞株の性質には影響を及ぼさない可能性が示唆された。胚様体形成試験およびアルカリホスファターゼ活性反応によって、本研究で分離された細胞株の性質は既成のES細胞株に類似することが示唆された。高度な正倍数性を保持するOKB6-ⅠおよびOKB6-Ⅱについて、共培養法によってキメラ作出を試みた結果、OKB6-Ⅰからはキメラは得られなかったが、OKB6-Ⅱから毛色雌キメラ1匹が得られた。交配試験の結果、このキメラにおけるOKB6-Ⅱ細胞の生殖系寄与は確認できなかった。また、OKB6-Ⅱからは、半陰陽体1匹が得られた。この個体は雌型の外陰部を示したが、雄の陰嚢に相当する部位に膨らみを有した。剖検の結果、内部生殖器は雌型と不完全に雄性化した異常器官が確認された。これは、雄株であるOKB6-Ⅱによって不完全に雄性化した結果であると考えられる。一方、BALB系由来ES細胞株は、全胚盤胞培養法では分離できなかった。桑実胚解離培養法によってさらに分離を試みた結果、全胚盤胞培養法により多数のES様コロニーが得られたが、細胞株の分離には至らなかった。

 2. 次に、ESD3細胞にpMGN(-4k)LacZにpMC1neoPolyA由来neoカセットをサブクローニングし、ESD3細胞に電気穿孔法によって導入した。選択培養後、30個の未分化コロニーを拾取した。サザンハイブリダイゼーションを行った結果、20亜株でLacZの存在が確認された。胚様体形成試験および核型分析によって、高度な多能性を有することが示唆されたOM3およびOM13を中心として、in vitroで導入遺伝子の発現を解析した。浮遊胚様体において、LacZ発現は、浮遊培養17日目から観察され始めたが、LacZ発現領域は胚様体の1部に制限された。OM3細胞による付着分化培養系では、分化培養13日目から細胞レベルのLacZ発現が確認され始めた。筋芽細胞と考えられるLacZ陽性細胞の数は経時的に増加し、さらに、筋管を形成するために、LacZ陽性細胞は分極化し、繊維状に配列し始めた。

 3. さらに、OM3細胞を用いてESキメラを作出し、in vitroにおける導入遺伝子発現を組織学的に解析した。13.5~14.5日齢のキメラ胎児において、広範囲におよぶLacZ陽性領域が認められた。LacZ発現は骨格筋組織に制限され、他の組織では確認されなかった。また、1部の骨格筋では、LacZ発現細胞は見られなかった。これは、OM3細胞の移動性が低かったためと考えられた。

 結論として、OM3細胞はマウスの骨格筋に特異的に発現する細胞マーカーとして有効であることが示された。