氏   名
フォン タン ロン
PHUNG THANG LONG
本籍(国籍)
ヴィエトナム
学位の種類
博士(農学)
学位記番号
連研 第167号
学位授与年月日
平成13年3月23日
学位授与の要件
学位規則第4条第1項該当
専  攻
生物生産科学専攻
学位論文題目
Studies on the effects of growth hormone-releasing peptide-2 administration on the release of growth hormone and meat productivity in swine
(肉用豚における成長ホルモン放出ペプチド(GHRP-2)投与が成長ホルモン放出及び産肉性に及ぼす影響に関する研究)
論文の内容の要旨

 エンケファリン由来の合成成長ホルモン放出ペプチド(GHRPs)はin vivo、in vitroでヒト、ウシ、ヤギ、実験動物等で成長ホルモン(GH)放出を刺激することが報告されている。これまでのところ、GHRPsの中でGHRP-2が最も効果のあるGH放出刺激物質とされている。家畜に対するGHRP-2のGH放出刺激活性及び成長促進作用は反芻動物では報告されているが、肉用家畜として重要なブタに関する報告はまだない。本研究では、肉用豚におけるGHRP-2投与によるGH放出反応の特性及び産肉性に及ぼす影響を検討するための4つの実験を行った。

<実験1> 肉用豚に対するGHRP-2の静脈内及び連続皮下投与とGH放出反応及び増体成績
 約4ヶ月齢LWD交雑種去勢豚にGHRP-2を頚静脈内単回及び反復投与してGH放出反応特性を検討し、さらに、連続皮下投与によるGH放出反応及び増体成績を検討した。GHRP-2を0(生理食塩水)、2、10、30及び100μg/kg BWの用量で頚静脈内に単回投与すると、GH放出は用量依存的に刺激され、血漿GH濃度は15分でピークに達し、120分で基礎濃度に戻った。2時間間隔三回反復の頸静脈内投与(30μg/kg BW)でGH放出反応は2回と3回目で有意に減少した。 GHRP-2連続皮下投与は対照区(生理食塩水投与)と試験区(GHRP-2、30μg/kg BW投与)それぞれ毎朝1回30日間連続した。試験区の血漿GH濃度は増加し、第1、10及び30日目でのGHRP-2投与後3時間のGH放出反応曲線下面積(GH AUC)は対照区より有意に大きかった。GHRP-2連続皮下投与により日増体量は増加し、飼料要求率は低下した。

<実験2> 肉用豚に対するGHRP-2とGHRHの同時投与がGH放出反応に及ぼす影響
 実験1と同様の去勢豚にGHRP-2 (30μg/kg BW)、GHRH(1μg/kg BW)をそれぞれ単独及び両者を同時に頚静脈内投与してGH放出反応を検討した。GHRP-2、GHRHあるいはGHRP-2とGHRHの同時頚静脈内投与は何れもGH放出を有意に刺激し、GHRP-2、GHRHの同時投与後2 時間のGH AUCはGHRP-2とGHRH単独投与後2時間のGH AUCの合計値より高く、同時投与はGH 放出を相乗的に刺激することが示された。

<実験3> 肉用豚におけるGHRP-2飼料中混合及び経口投与がGH放出反応に及ぼす影響
 実験2と同様の去勢豚を用い、GHRP-2の飼料中及び経口投与のGH放出反応に及ぼす影響を検討した。GHRP-2をブタに0 (生理食塩水)、1、4.5及び9 mg/kg BWの用量で単回経口投与すると、GHRP-2はGH放出を用量依存的に刺激することが示された。投与後15分で血漿GH濃度はピークに達し、120分で基礎濃度に戻った。GHRP-2の飼料中混合投与ではブタに毎日朝と夕2回3日間 GHRP-2を0 (対照区)、1、4.5及び9 mg/kg BWの用量で投与した。 4.5及び9 mg/kg BW のGHRP-2飼料中混合投与はブタのGH放出を刺激した。GHRP-2投与後60-75分で血漿中GH濃度はピークに達し、120-135分で基礎濃度に戻った。両投与量ともGH反応のAUCには有意差がなく、第1と3日目の朝投与後のGH AUCに有意差はなく、GHRP-2は3日連続の飼料中混合投与でGH放出反応は減衰しないことが確かめられた。

<実験4> 肉用豚におけるGHRP-2連続皮下投与が枝肉成績及び肉質に及ぼす影響
 LWD交雑種去勢豚を2群に分け、対照区には毎朝一回生理食塩水を、試験区にはGHRP-2 (30μg/kg BW)を37日間連続皮下投与し、CP 16%の飼料を朝と夕1日2回飽食給与し、試験終了後屠殺解体して枝肉成績及び肉質に及ぼす影響を検討した。GHRP-2投与により枝肉歩留は増加する傾向があり、屠体長、内臓重量割合は変化がなく、皮下脂肪厚は減少し、枝肉の筋肉割合が増加、脂肪割合は有意に減少した。胸最長筋の肉色を表すL*、a*、b* 値には変化がなく、胸最長筋断面積は有意に増加し、pH、水分含量及び加熱失率も変化がなかった。胸最長筋の粗蛋白質含量は増加、粗脂肪含量は有意に減少し、切断抵抗値は変化がなく、肉用豚に対するGHRP-2 投与は枝肉の筋肉割合が増加、脂肪割合が低下し、肉質には悪い影響を及ぼさないことが確かめられた。

 以上の4つの実験結果から、肉用豚に対するGHRP-2の静脈内、皮下、経口、飼料中混合投与はいずれもGH放出を刺激し、GHRP-2とGHRHの同時投与はGH放出を相乗的に刺激し、肉用豚においてもGHRP-2は牛と同様にGHRHと異なる作用経路でGH放出を刺激している可能性が考えられた。飼料中GHRP-2混合投与によるGH放出は経口投与におけるよりも反応が低いものの、短期間の飼料中混合投与はGH放出反応の減衰を示さず、また、GHRP-2の連続皮下投与は増体成績を向上し、脂肪含量の少ない枝肉を作る可能性が示唆された。