氏   名
きむら あきお
木村 彰男
本籍(国籍)
岩手県
学位の種類
博士(工学)
学位記番号
工 第7号
学位授与年月日
平成13年3月23日
学位授与の要件
学位規則第4条第2項該当
学位論文題目
ハフ変換を用いた高速画像認識法の研究
(A research on the fast image recognition methods using Hough transforms)
論文の内容の要旨

 入力画像からある特定の図形を適当な幾何学変換(例えば,相似変換)に関して不変な形で検出する問題は,画像認識における基本的で重要な研究課題である.従来,ハフ変換は雑音や隠ぺいに強いロバスト(頑健)な図形検出法として多数の研究がなされてきたが,線分と円の検出を除いてはまだ実用化レベルのものは開発されていない.そこで本論文では,検出対象図形として楕円と任意曲線図形を選び,これらを相似変換またはアフィン変換に関して不変な形で検出する高性能なハフ変換認識法を実現するための研究を行った.

 まず第2章では,Liらによって提案された高速ハフ変換(FHT:FastHough Transform)が楕円検出問題にも適用可能なことを示し,これに組合せハフ変換(CHT:Combinatorial Hough Transform),階層化画像,分割画像,楕円度判定,最小2乗法,探索方向の制限,などを取り入れた新しい楕円検出法(楕円検出法1)を提案している.この手法は,品質のかなり劣化した欠損楕円にも対処できる検出法となっており,評価実験を通じてその妥当性と有効性を示している.

 第3章では,一般化ハフ変換(GHT:Generalized Hough Transform)の原型を与えたMerlin-Farber法(MF法)に,更にCHT的要素を導入した改良型楕円検出法(楕円検出法2)を新たに提案している.そして,評価実験によってその性能を従来の楕円検出法と比較し,主に検出精度の面で改善効果があることを示している.

 第4章では,まず,2値の不連続輪郭線画像から安定に接線情報を抽出できる手法として,ハフ変換と共分散行列による方法を組み合わせた手法を提案している.そして,エッジ点の位置情報と接線情報を積極的に利用した楕円検出法(楕円検出法3)を新たに提案している.更に,接線情報を考慮した最小2乗法による最適楕円当てはめを用いることで,従来手法では検出が困難とされていた,輪郭線が連続して50%以上も欠落している欠損楕円も検出可能となることを示している.

 第5章では,検出対象を楕円から一般的な任意曲線図形に拡張し,相似変換に不変な図形検出法としての高速一般化ハフ変換(FGHT:FastGHT)を新たに提案している.この手法では,エッジ点におけるこう配情報の不確定さを考慮した投票方式が採用され,更に,チェック点と呼ばれる輪郭点を利用した投票制限が導入されているため,従来法に比べてより高精度な検出が可能となっている.また,線分近似手法を併用するので,検出に要する処理時間も大幅に短縮されている.評価実験では,FGHTが十分に実用的な手法となっていることが示されている.

 第6章では,第5章のFGHTを更にロバスト化するために,まずはFGHTに残されていた検討課題の詳細について述べ,それに対処するための改良型FGHT(MFGHT:Modified FGHT)を新たに提案している.MFGHTではFGHTの投票方式が更に改善されるので,検出対象図形の一部にひずみや変形がある場合でもある程度対処できるようになっている.評価実験では,その検出性能についてFGHTとの比較を試み,検出のロバスト性,処理の高速化,という面で大幅に性能が改善されていることが示されている.

 第7章では,認識問題を相似変換から更に一段上のアフィン変換不変な任意図形検出に設定し,これを実現するための新しい手法としてAffine-GHTを提案している.Affine-GHTでは,アフィン変換下では図形の平行性が保存されるという性質を利用し,輪郭点の接線情報を積極的に利用する形でGHTが拡張される.これにより,従来法では検出が困難と考えられていた状況下においてもアフィン変換に不変な任意図形検出が可能となっている.更に,比較的曲率の大きい輪郭点画素位置でも安定に接線情報を抽出できる改良手法として,ハフ変換を用いた円弧当てはめによる接線情報抽出法を新たに提案している.評価実験では,これらの提案手法が従来法に比べてよりロバストで実用的な手法であることが示されている.

 第8章では,本研究の意義と到達点,及び今後の課題についてまとめている.