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こわた としのり
小綿 利憲 |
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岩手県 |
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博士(工学) |
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工 第5号 |
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平成13年3月23日 |
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学位規則第4条第2項該当 |
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片状黒鉛鋳鉄の黒鉛化と機械的性質に及ぼす希土類元素の影響とその機構に関する研究 (Studies on the mechanism and influence of the rare earth element on the graphitization and mechanical properties of the flake graphite cast iron) |
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近年、省資源、省エネルギーの観点から機械構造体に重量軽減対策が施されつつあるが、自動車の分野でも、高機能化、過積載規制などの面から鋳鉄の軽量化が望まれている。特に、大型トラック用ディーゼルエンジンの低燃費化と排出ガス改善のために、エンジンの軽量化、高出力化の対応が望まれている。このことからエンジン材料である片状黒鉛鋳鉄の高強度化が求められている。 希土類元素(RE)は、きわめて活性の大きい元素であり、鋳鉄溶湯中の硫黄(S)と反応して希土類元素の硫化物を形成する。球状黒鉛鋳鉄にREを添加することにより、REの硫化物が晶出しこの硫化物が黒鉛晶出の下地として作用し、著しく球状黒鉛粒数が増加し、球状黒鉛鋳鉄の薄肉化が可能となった。片状黒鉛鋳鉄の場合もREの添加により、REの硫化物が晶出しこの硫化物が黒鉛晶出の下地として黒鉛化に有効に作用することが期待される。そこで本研究では、元湯S量の異なる片状黒鉛鋳鉄に、種々の希土類元素を単独添加した場合の黒鉛化及び機械的性質について詳細に実験を行い検討を行った。 片状黒鉛鋳鉄の黒鉛化傾向に対するREの効果について調べた結果、セリウム(Ce)、ランタン(La)、ネオジウム(Nd)及びイットリウム(Y)を添加することにより、チル深さの低減及び機械的性質の向上が可能となった。また、その効果はミッシュメタルでも同様であった。元湯S量の多い鋳鉄溶湯にREを添加したほうが、黒鉛化及び機械的性質の改善の度合いが大きくなった。黒鉛化に及ぼす希土類元素硫化物の挙動について調べた結果、チル深さが著しく低下するRE添加量の値は、REとSの化学量論的な値(RE2S3)に極めて近似することがわかった。黒鉛は共晶凝固後にこの硫化物と融液との界面に晶出し、共晶凝固の進行に伴って分岐し片状黒鉛に成長した。 元湯S量に対し化学量論的な量のREを添加した片状黒鉛鋳鉄に、合金元素を添加して黒鉛化及び機械的性質を調べた結果、REを添加した試料に、Vと銅(Cu)、CrとCuを複合添加することにより、450MPa引張強さを示す著しく高強度の鋳鉄が得られた。また、片状黒鉛鋳鉄にREとMnを複合添加することで、Aらに、Mnの添加により、基地のパーライト層間隔が狭い試料が得られた。RE 0.2%とMn 1.5%添加した片状黒鉛鋳鉄では、クリアチル深さが低く、引張強さ300MPa、ブリネル硬さ200を示す機械的性質が得られることを確認した。 鋳鉄溶湯中のS量に対して化学量論的な量のREを添加し、さらにMnを1.0~2.0%複合添加することにより、MnとREからなる複合硫化物(RE2S3+MnS)が生成した。この複合硫化物が黒鉛晶出に有効な下地となることを明らかにした。 片状黒鉛鋳鉄を強靱化するためには、黒鉛組織はA型で均一且つ方向性がないこと、基地組織はパーライトが微細で緻密であることが望まれる。その結果、前述のようにREとMnの添加により、片状黒鉛鋳鉄のチル化低減を図り、さらに黒鉛組織を改善し、基地組織の強化を行い、従来の鋳鉄に比較して高強度で硬さが低く且つ被削性の良好な鋳鉄材料の開発ができた。 |