氏   名
しらさわ みちお    
白澤 道生
本籍(国籍)
秋田県
学位の種類
博士(工学)
学位記番号
工博 第49号
学位授与年月日
平成13年3月23日
学位授与の要件
学位規則第4条第1項該当
専  攻
電子情報工学専攻
学位論文題目
細密数値標高モデルを用いた水系及び地形情報の抽出に関する研究
(Extraction of drainage network and toporaphical by using fine digitalelevation model)
論文の内容の要旨

 地形情報は様々な分野で活用される。地形情報の最も基礎である標高データ、 特に数値標高モデル(DEM)の活用も進んでいる。 近年のコンピュータの高性能化により、広域かつ細密な DEM を用いた様々な主題データが作成されるようになったが、DEM の仕様や演算手法により結果に 大きな差が出る問題がある。本研究では普及している国土地理院発行のDEM 「数値地図50mメッシュ(標高)」を 用いて、斜度の算出手法の比較、開度の算出及び地形特徴の判読例、水系自動抽出手法について述べる。 「数値地図50mメッシュ(標高)」を接合して作成した等緯度経度DEM もしくは UTM図法へ投影変換した UTMDEM を使用する。

斜度算出法と判読できる地形特徴の比較について

 傾斜角や傾斜方位は地形に関する最も基本的な要素である。DEMを用いて算出した傾斜角=斜度の算出方法は  いくつか提案されており、それぞれ特徴を持つ。ここでは斜度の算出方法の特徴や類似性について議論する。  本研究で扱う8つの斜度算出法は、計算方法により3種類に大別できる。着目格子点における微分や勾配演算に  基づく4手法、回帰平面に基づく3手法、接ベクトルに基づく1手法である。
 東北地方北部の等緯度経度DEMを作成し、各手法で斜度を算出した。山間部と平野部の2地域に対象領域を設定し、  各手法の特徴を、データの統計値の比較、斜度図を用いた目視評価、算出法の比較検討を行った。  回帰平面に基づく3手法等は尾根線・谷線を抽出するのに適しているが、斜度値には疑問が残る手法である。  接ベクトルに基づく手法は計算が複雑であるが、格子点における勾配を求める点が特徴であり、8手法の中では  斜度を最も正確に反映できると思われる。他の手法にもそれぞれ特徴が見られた。斜度データや斜度図を  利用する際には、これらの特徴を把握した利用が望まれる。

開度による地形特徴の表示と抽出

 開度は地上や地下の見晴らしを表す度合いである。局所的な計算で得られる斜度や陰影図とは異なり、  地形の規模を反映できる大局的な指標である。
 着目格子点から1方位を見た時、指定した距離内で最も空を遮る格子点を天頂がなす角度を地上角とする。  逆に最も凹の地点の格子点と天底がなす角度を地下角とする。東西南北とその中間の8方位の地上角の平均を地上開度、  同地下角を地下開度とする。地上開度は山頂や尾根で大きな値をとり、逆に地下開度はくぼ地や谷で大きな値をとる。  また計算する領域の範囲を変えることで抽出される地形の規模を変えることも可能である。
 東北地方の UTM DEM を用いて地上開度・地下開度を算出した。演算結果を画像で示した地上開度図や  地下開度図では、尾根や谷が明瞭にあらわれる。同様に指標として用いられるラプラシアンや凸度よりも情報量が多く、  また衛星画像のように地上被覆に影響されないデータである。
 開度図や斜度図を用いた地形、地質の判読も試みられている。リニアメントの判読、花崗岩や石灰岩等の地質の境界決定、  火山地形の判読等に、開度図や斜度図が参考資料として非常に有用であることが確認された。

細密 DEM による広領域の水系抽出手法の提案

 水系情報は環境面だけでなく、産業・ 生活面においても重要な要素である。  水系情報を DEM から求める水系抽出は古くから行われているものの、広域かつ細密な DEM に適用可能かつ  実際の河川や湖沼を反映できる水系抽出法はなかった。
 本論文で提案する手法では、これらを解決する特徴を持つ。  まず水系ベクタデータを抽出に利用ことで、実際の水系を反映した結果が得られる。  さらに平地部分の流路について、積算流路長を考慮した流出方向の決定により直線上の不自然な水系抽出を防ぐ。  他にもくぼ地の埋め込み量を制限すること等の改善を図っている。
 東北地方北部領域について、等緯度経度 DEM と 1/20万水系ベクトルから作成した地図水系を用いて  抽出処理を行った。  河道や湖沼を表現するために水系次数を算出し、また河口を基準点として水が流れ込む領域を示す集水域も算出した。
 抽出データの中から、山間部地域と平野部地域の2つの領域を設定し、従来の手法と本手法の抽出結果を比較した。  平野部ほど開発が進んでいない山間部地域ではいずれの手法も大きな差異は見られなかったものの、1/25,000 地形図に  掲載されている水系は十分に抽出でき、さらに人間が等高線から判読する規模の水系もある程度抽出できた。  平野部地域では顕著な差が表われ、直線状の流路が平行して走る従来の手法に対し、本手法では人工的に造成された  水路も表われ不自然な流路の生成を防いだものとなった。

 現在、DEM の高精度化や細密化、地図のディジタル化が進んでいる。 さらに様々な地形情報が地理情報システムで利用されている。 今後も地形データの整備や利用、検証が期待されている。