氏   名
わかな ひろき
若菜 裕紀
本籍(国籍)
日 本
学位の種類
博士(工学)
学位記番号
工博 第48号
学位授与年月日
平成13年3月23日
学位授与の要件
学位規則第4条第1項該当
専  攻
物質工学専攻
学位論文題目
積層型ジョセフソン接合作製プロセスに関する研究
論文の内容の要旨

 1986年の酸化物高温超伝導体の発見以来、超伝導エレクトロニクス応用に向けた研究も着実に進んできている。超伝導の応用は、電気抵抗ゼロ、マイスナー効果、低い高周波損失、非分散性、ジョセフソン効果など超伝導特有の性質を利用するものである。この超伝導応用には、その物質のTc以下まで温度を下げる必要があり、冷却技術の発展も必要不可欠となっている。そのため、液体窒素温度以上のTcを有する酸化物高温超伝導体が発見されてからは、冷却負荷の軽減、及びTcの向上による一層の高性能化が期待され、実用化を目的とした研究が現在でも数多くなされている。その超伝導エレクトロニクス応用の一つであるジョセフソン接合素子は、非線形能動素子として中心的役割を果たすとされている。酸化物高温超伝導体は、高いTcと大きなエネルギーギャップを有するため、その用途は広く、従来の金属系より高性能な接合素子の実現が期待されている。しかしながら、人工バリアを用いた積層型SIS接合の研究は、多くの解決すべき問題が有り、未だ完全なものは実現されていない。

 本研究は、酸化物高温超伝導体EuBa2Cu3O7-δ(EBCO)を用いた電子デバイス応用の一つである積層型SIS接合作製を実現することを最終目的とし、積層型接合作製の各プロセスにおける必要不可欠な技術、及び様々な問題点の改善を行った。 本論文中に詳述する実験結果の結論を以下に示す。

 1) 高温超伝導体EBCOは、大きな異方性を有し特異な二次元層状構造に由来するCuO2層(a-b面)に対し平行方向と垂直方向において、コヒーレンス長、磁場侵入長などが各軸方向で異なる。積層型接合作製の重要なパラメータとなるコヒーレンス長は、a、b軸方向では30~40 Åであるのに対し、c軸方向では3~7 Åと極端に短い。そのため、EBCOの成長方位を任意に制御し、コヒーレンス長との関係から、基板面に対しa軸方向に薄膜をエピタキシャル成長させる必要がある。c軸配向膜はバルク値に近いTc=90 Kを有する薄膜合成が比較的容易に得られるが、a軸配向膜は、c軸配向膜に比べ成長温度が低い理由から、高品質薄膜の作製が困難であった。そこで、CeO2をバッファ層として付けたサファイア基板を用い、a軸配向EBCOの成長温度、酸素濃度、成膜速度等の成長条件を明確にし、さらに、a軸配向膜の品質向上のため、温度傾斜法やPrBa2Cu3O7(PBCO)テンプレート法を用いて検討した結果、約87 KのTcを有する薄膜合成を可能にした。

 2) 高温超伝導体EBCOは、構造上Cu(I)-O面の酸素原子が抜けやすいことが知られており、酸素量7-δの変化により超伝導特性が大きく変化し、酸素量の制御が重要な問題となっている。積層型接合などの多層膜形成において、低酸素圧中の高温プロセスにおいて、下層EBCOが酸素欠損し劣化する。そのため、劣化現象の解明と回復技術の確立が必要不可欠となる。本研究において、純酸素雰囲気中での熱処理によるEBCO薄膜への影響と、我々の研究グループが独自に開発した活性化酸素プラズマ(AOP)処理によるEBCOへの影響を明らかにした。その結果、AOP処理は、純酸素中での熱処理に比べ、劣化した薄膜に対し回復の効果が大きく、酸素欠損により超伝導性を全く示さない薄膜に対して、520℃、40分のAOP処理を施すことによりas-grown薄膜まで回復することを可能にした。

 3) 積層型SIS接合作製において、中間の絶縁バリア層形成時に生じる下層超伝導層の劣化、及びバリアの層の島状成長による接合部でのピンホールの発生が接合実現への大きな壁となっている。そのため、バリア層の作製プロセスの改善、及びバリア材料の選択が重要となっている。本研究では、CeO2、STO、CeO2\STOを絶縁材料として用い、絶縁層の成長温度、膜厚に対する下層EBCOの影響を明らかにし、バリア層としての検討を行った。CeO2\STO多層バリアを用いた場合、下層EBCOの劣化が軽減し、ピンホールの生成が抑制可能となった。また、CeO2\STO多層バリアは、単層STOバリアに比べAOP処理による回復効果的になり、CeO2(50Å)\STO(200Å)をバリアとして用いた積層型接合のI-V特性の一次微分したdI/dV-V特性からギャップ構造が確認された。

 以上の論文内容は、酸化物超伝導体を用いたジョセフソン接合作製を実現するための各作製プロセスにおける諸問題を解決し、積層型ジョセフソン積層型接合素子実現の可能性を示した。