近年,コンピュータグラフィックス(CG)による自然現象のビジュアルシミュレーションの分野においては,物理ベースのシミュレーション手法が多く提案されてきている.しかしながら,物体表面上で直接動作する自然テクスチャの生成法は未だ提案されていない.さらに,実世界には多層構造の表面を持つ物体が多く存在するにもかかわらず,その表現法に関する研究例も未だ少ない.本論文では,これらの2つの重要な問題に対して,3次元表面セルラオートマトン(3DSCA)と多層表面構造を持つ物体の表現法を提案し,その有効性を以下のような自然現象のビジュアルシミュレーションへの応用例により示す.
- 2.5次元物体表面での水分の吸収,飽和,蒸発,水分による浸食と堆積
- 2.5次元と3次元物体表面での腐食の伝播
- 3次元物体表面でのひび割れの伝播と破砕パターン
- 3次元物体表面での多層表面の剥離の伝播
具体的には,本論文では,以下のような新しいモデルと,それを実現するために新規に開発された手法について述べる.
- ・腐食モデルと液体や固体とのインタラクションを考慮した最初の研究
- ・3腐食や錆と粒子ベースの水とのインタラクションモデル
- ・腐食モデルと液体や固体とのインタラクションを考慮した最初の研究
- ・3次元表面セルラオートマトン(CA)
- ・"3DSCA": CGのためのソリッドモデルの新しい表現法
- ・3DSCAを用いた錆と腐食のシミュレーション法
- ・新しい幾何領域の決定法: 3次元表面ボロノイ領域
- ・ハイブリッド3DSCA
- ・ハイブリッド3DSCA: CAと他の機能を並列に利用する新しい概念
- ・ハイブリッド3DSCAを用いた,様々なタイプの素材に対する,表層部での破砕の伝播シミュレーション
- ・応力スペクトル: 表面上の応力を表現する新しい方法
- ・ガラス上物体のひび割れにおける鏡面効果の新しい表現法
- ・ハイブリッド3DSCAを用いた層の剥離のシミュレーション法
- ・剥離の経時変化を表現する新しい手法
本論文の構成は以下のようである.
第1章では,自然現象のビジュアルシミュレーションにおける3DSCAに関する本研究の背景と目的を述べる.
第2章では,まず2.5次元物体表面(高さの場表面)での腐食のビジュアルシミュレーションのためのセルラーオートマトンベースのCG技術について述べる.
次に,一般的な3次元物体表面で動作する手法への拡張について触れる.
第3章では,まず3DSCAとそれを描画するためのレンダリング法を提案する.ここで
は,3DSCAの詳細な定義,すなわち,3DSCAを三角形化された3次元物体のそれぞれの三
角形面に割り当てられたCAの集合として,さらにその隣接CA間での通信法を定義する.
本手法の優れた点は,任意の三角形化された3次元物体表面に,直接,そのテクスチャ
を生成することができることにある.
第4章では,3DSCAの2つの異なる応用を詳細に示す.これらの応用例により,提案手法のCGのための有効性と,特にその応用の潜在的な広さを示す.
第5章では,ハイブリッド3DSCAを提案し,その定義と2つのタイプの自然現象のシミュレーション例を示す.一つは,多層表面構造におけるひび割れパターンのシミュレーションモデルであり,他の一つは多層表面の剥離モデルである.
第6章では,結論と本研究の展望について述べる. |