氏   名
せきもと たかひろ
関本 貴裕
本籍(国籍)
岩手県
学位の種類
博士(工学)
学位記番号
工博 第39号
学位授与年月日
平成13年3月23日
学位授与の要件
学位規則第4条第1項該当
専  攻
物質工学専攻
学位論文題目
合成層状ケイ酸塩−有機化合物複合体に関する研究
(Study on synthetic layer silicate-organic compound composites.)
論文の内容の要旨

 膨潤性粘土鉱物の一種であるスメクタイトは、イオン交換能、ゾル・ゲル形成能などの特異な機能を有することから、古来、粘性調整剤、洗浄剤、化粧品などの分野で広く用いられてきた物質である。近年、このスメクタイトを化学的に合成する手法が開発され、工業的に製造されるようになった。合成スメクタイトは、天然スメクタイトの研究でモデル物質として用いられるほか、その特異な機能を生かして、様々な分野で工業的に使用され始めている。しかし、使用される工業分野の変化や社会的な要請により、新たな機能を持つ材料の開発が求められている。

 例えば、1950年代にスメクタイトの層間にイオン交換によって有機化合物を導入した有機スメクタイトが開発され、塗料、化粧品、インク等の粘性調製剤として広く使用されてきた。有機スメクタイトに関しては数多くの研究例が報告されているが、分散・増粘が可能な有機溶媒はトルエン等の低極性溶媒に限定されていた。しかし環境や安全への配慮から、使用される溶媒はアルコール等の高極性溶媒にシフトしてきており、このニーズに対応する新たな有機スメクタイトの開発が嘱望されてきた。また、現代のテクノロジーでは学際、境界領域が注目され、例えば有機−無機複合材料等の開発が盛んに行われている。我が国においてはclay-polymer hybrid化合物が世界に先駆けて合成され、有機−クレー複合体の分野では最先端にあると言われている。この材料においても、キーとなるのはマトリックスとなる物質とクレーとの親和性であり、多様な有機スメクタイトを開発し、その性質を知ることは意味のあることである。

 スメクタイトを水系で使用する場合にも、スメクタイトは疎水コロイドなので、多量の電解質や酸が存在すると凝集、沈澱してしまう。しかし使用される分野の拡大に伴い、電解質を共存したり、系のpHを調整する必要のあるケースが多くなっており、これらの環境下で機能するスメクタイトの開発が求められている。そこで本研究では、合成スメクタイトに更なる機能を付与することを目的に、スメクタイトと有機物質との複合化を検討した。以下章毎に要旨を述べる。

 第1章では膨張性粘土鉱物の概略を述べるとともに、本研究の背景、目的を述べた。

 第2章では本研究に用いた合成スメクタイトの特性について述べた。合成スメクタイトは1960年代に開発され、1次粒子径がおおよそ50nmと微細であり、イオン交換能、ゾル・ゲル形成能を示す。また化学的に合成可能であることから、一定の範囲では生成するスメクタイトの性質を制御することが可能である。

 第3章ではアルキルアンモニウムカチオンで修飾した有機スメクタイトの合成とその性質について述べた。この有機スメクタイトの有機溶媒に対する分散性は、アルキルアンモニウムの長鎖アルキルの全炭素数で良く整理された。従来、有機スメクタイトの膨潤・分散は、有機溶媒の溶媒和によると説明されてきたが、層空間を占めるアルキルアンモニウム(有機物)層の性質に対して親和性を有する有機溶媒分子が層間に侵入する機構(マトリクス効果)を推定した。この機構は高分子物質の溶解現象に類似するものと考えた。

 第4章ではオキシエチレン(EO)基を有するアンモニウムに着目し、有機スメクタイトの合成とキャラクタリゼーションをおこなった。有機溶媒に対する分散性を検討したところ、N,N-ジメチルホルムアミドやエタノール等の極性溶媒に親和性を有し、安定な分散液を形成した。アルキルアンモニウムとは異なり、ドナー溶媒である非プロトン性極性溶媒はアンモニウムカチオンの末端のOH基に、一方アクセプター溶媒であるアルコールはEO基あるいは末端のOH基に直接あるいは水分子を介して溶媒和(水素結合)することを明らかにした。また低極性溶媒は、アルキルアンモニウム複合体と同様にマトリクス効果によって有機溶媒分子が層間に侵入すると見なされた。

 第5章ではオキシプロピレン(PO)基を含むアンモニウムを用いて修飾した有機スメクタイトの調製とその性質を述べた。EOが非常に親水性の強い官能基であるの対して、POは疎水性の官能基である点が異なる。この有機スメクタイトは低極性〜高極性までの広い範囲の有機溶媒に親和性を有し、安定な分散液を形成した。この場合も高極性の有機溶媒はPO基や末端のOH基への溶媒和(水素結合)することにより膨潤が起こると考えられた。また、PPO基の疎水性に起因して、アルキルアンモニウム複合体の場合と同様な、層空間の環境に応じて親和性を有する溶媒分子が層間に侵入して膨潤が起こるメカニズムを推定した。

 第6章ではEO基を含む有機アニオンとの複合化を試みた。通常アニオン性化合物は、酸性領域において正に荷電する層端面との静電作用によりスメクタイトに吸着することが知られているが、EO基を含む場合は、アルカリ性領域においてはEO基と層表面との相互作用によって、酸性領域では層端面との静電作用によりスメクタイトに吸着することを明らかにした。この複合体の水系での粘性特性は、未処理のスメクタイトのそれとは大きく異なり、アルカリ領域では見掛け粘度はEO基が多いアニオンほど、系のアニオン濃度が高いほど低下した。また、スメクタイトの中性〜弱酸性領域での分散性を大きく改善し、スメクタイトの使用可能な領域を低pH側に拡張した。この場合、有機アニオンの吸着挙動から、水系分散液の粘性特性の変化を良く説明できることを明らかにした。

 第7章では以上の結果を総括し結言とした。