氏   名
Kang Zhixin
康  志新
本籍(国籍)
中 国
学位の種類
博士(工学)
学位記番号
工博 第38号
学位授与年月日
平成13年3月23日
学位授与の要件
学位規則第4条第1項該当
専  攻
物質工学専攻
学位論文題目
トリアジンチオールの有機メッキによる鋳鉄の機能化
( Functionalization of Cast Iron with Triazine Thiol by Polymer Plating )
論文の内容の要旨

 鋳鉄は一般的に形状加工性及びリサイクル性が良く、安価であるため広範囲に利用される重要な構造材料である。しかし、鋳鉄は非常に腐食しやすいという問題がある。これは鋳鉄の利用価値をかなり下げ、生産効率を著しく低下させている。現在鋳鉄製品は腐食しやすいので、塗装して使用されている。鋳鉄製品が型から出されて塗装するまでの時間が長いほど、またこの間の湿度が高いほど製品の塗装後の耐食性は低くなる。今まで鋳鉄製品の有効なプライマー処理技術が開発されてきていないことがこのような耐食性の低下をもたらしている重要な問題である。従来のクロメート処理やリン酸処理は、鋳鉄以外の金属には塗装後の耐食性を向上させるのに有効であるが、鋳鉄の微細な凹凸やカーボンと鋳鉄間の隙間はこのような化成処理の有効性を減じる。さらに、最近の厳しい環境規制ではクロメート処理やリン酸処理などのプライマー処理を拒否する傾向を示している。この様な観点から、鋳鉄に多くの機能を付与するためには優れたプライマー処理法の開発が重要である。

 トリアジンチオールによる有機メッキ技術は静電引力による被覆性に富むため、鋳鉄の様に凹凸や隙間のある金属表面のプライマー処理法として期待され、かつ排出される廃液処理などの環境問題に対して容易に対処でき、将来十分有用な表面処理技術として鋳鉄製品の発展に貢献できる。

 また、金属・ゴムの複合製品は機能部品、構造部品として電気電子産業、自動車産業等で広く活用されている。これらの接着物は金属を化成処理した後接着剤を塗布する間接接着法と接着剤を使用しないでゴムの架橋時に接着する直接接着法により生産している。直接接着法は安価で大量生産性に優れた接着物を与え、形状の複雑な接着物にも適応可能であり、有機溶剤を使用しないため作業環境が改善され、製造コストを下げることができる。鋳鉄の需要拡大を狙うには複合化による機能性材料への展開が不可欠であり、薄肉強靱鋳鉄とゴムの直接架橋接着技術の開発が要求されてきた。

 本研究では、薄肉強靱鋳鉄表面にトリアジンチオールの有機メッキ被膜を付与するプライマー処理技術を確立し、その処理した薄肉強靱鋳鉄の機能化を計るためにゴム材料との直接架橋接着技術について検討することを目的とした。

 薄肉強靱鋳鉄のプライマー処理技術において、有機メッキに使用するトリアジンチオールの分子設計と合成を行った。極性置換基と無極性置換基を有するトリアジンチオールを用いて薄肉強靱鋳鉄表面に、有機メッキ処理を行い、生成した有機被膜の物性を分析した。その結果、薄肉強靱鋳鉄表面をトリアジンチオールにより有機メッキした薄肉強靱鋳鉄の表面は撥水性を示した。電位走査有機メッキ処理法において、掃引速度、走査電位範囲及び支持電解質が成膜するトリアジンチオール有機被膜の物性に大きな影響を与えることが明らかとなった。また、トリアジンチオールの種類と耐食性の関係を検討した結果、無極性で分岐鎖を有する6-ジイソオクチルアミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオールモノナトリウム塩(i-DON)が最も耐食性が優れていることが明らかになった。0.1M NaCl水溶液中での分極曲線及びインピーダンスを測定した結果、40℃付近の有機メッキ温度で有効な防食処理条件が見出された。また、定電流法及び定電位法と比較して、低掃引速度での電位走査法により有機メッキした薄肉強靱鋳鉄は高い腐食抑制作用を示すことが明らかとなった。有機メッキ処理した鋳鉄は梅雨時期に空気中に放置しても錆の発生は認められず、また、これらを24時間盛岡市水道水に浸せきした結果、錆の発生は認められなかった。さらに、有機メッキ処理した薄肉強靱鋳鉄は飽和水蒸気に対して優れた耐食性を得ることが示された。これらの研究結果から薄肉強靱鋳鉄の耐食性が飛躍的に向上したプライマー処理技術を確立した。

 一方、薄肉強靱鋳鉄とゴム材料の複合化については有機メッキ処理した薄肉強靱鋳鉄とエチレンプロピレンゴムの直接架橋接着を行い、接着強度に及ぼす有機メッキ条件及びゴムの加工条件の影響を検討した。その結果、6-ジアリルアミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオールモノナトリウム塩(DAN)の有機メッキによって処理された薄肉強靱鋳鉄とエチレンプロピレンゴム、またはアクリルゴムの直接架橋接着に成功した。また、定電流法においては電流密度と有機メッキ時間が、処理された薄肉強靭鋳鉄とゴムの接着物の剥離強度とゴム被覆率へ大きな影響を与えることが分かった。

 本研究における鋳鉄とゴム材料の複合化技術である直接架橋接着は、自動車産業における薄肉強靱鋳鉄とゴムの複合部品であるエンジンマウントや防振部品、そして建築土木産業における免震材料などへの展開が計られ、実用化が期待される。

 本研究の実施によって、高機能・複合型の次世代鋳鉄の創製が可能となり、地域産業の活性化、地域技術の飛躍的向上につながり、ひいては岩手が世界における鋳鉄研究と生産の拠点になることが期待される。