氏   名
おの げん
小野  元
本籍(国籍)
岩手県
学位の種類
博士(工学)
学位記番号
工博 第37号
学位授与年月日
平成13年3月23日
学位授与の要件
学位規則第4条第1項該当
専  攻
物質工学専攻
学位論文題目
B2型NiAl金属間化合物の高温強度の改善に関する研究
論文の内容の要旨

 NiAl金属間化合物はNi基超合金に比べ高融点、低密度であり、かつ熱伝導性および耐酸化性に優れていることから次世代の高温構造材料として有望視されている。しかし、高温強度がNi基超合金に比べ劣っていることから、NiAlの高温強度の改善が求められている。著者らの今までの研究によって、NiAlの高温強度の改善にIr添加が効果的であることが明らかにされている。本論文では、Ir添加によるNiAlの高温強度改善の効果を単結晶を用いて詳細に調べ、クリープ挙動、応力緩和挙動および転位観察からIr添加によるNiAlの強化機構についての知見を得ることによって、さらなるNiAlの高温強度の改善を目指すことを目的とする。

 本論文は、これらの研究成果を6章にわたってまとめたものである。

 第1章では研究の背景および目的について述べた。

 第2章では、Ir添加によるNiAlの高温強度改善の効果および延性能に及ぼす影響を単結晶試料を用いて詳細に調べた。5mol%のIr添加によって、NiAlの0.2%流動応力は室温~1673Kの温度範囲で約3~4倍高い値を示し、1273Kのクリープ速度は5桁程度の低下が見込まれる。また、Ir添加による室温での延性能の低下はみられず、4%以上の塑性ひずみが得られる。Ir添加したNiAlは変形後の試料表面に不均一変形による変形帯が見られ、転位観察の結果、容易すべり系と共に二次すべり系の活動が観察される。このことから、Ir添加によるNiAlの強化機構として容易すべり系の活動の抑制が示唆される。

 第3章では、1273K付近の温度におけるNiAlの高温変形機構に関する知見を得るため、多結晶NiAlの応力緩和挙動を解析し変形応力に占める内部応力と有効応力を見積もった。また、NiAlの応力緩和挙動の解析方法として菊池の方法およびLiの方法を用いるが、今まで両解析方法を金属間化合物の応力緩和挙動に適用した例はない。このことから、NiAlの応力緩和挙動の解析に両方法を適用することの妥当性について考察した。NiAlの応力緩和試験では緩和時間が約200秒以内の時間であれば転位回復の影響は無視でき、1273K付近の温度での応力緩和挙動解析の手法として菊池およびLiの方法は有効であることを証明した。NiAlの高温変形機構は純金属型と合金型の両方が共存し、可動転位の活性化体積から、高温でのNiAlの可動転位はジョグの引きずり抵抗によって粘性運動することが示された。

 第4章では、第3章での結果をふまえ、Ir添加したNiAl合金の内部応力および有効応力を見積もり、NiAlの両応力と比較することによって、Ir添加によるNiAlの高温での強化機構に関する知見を得た。Ir添加によるNiAlの高温クリープ強度の著しい改善は、内部応力の増加が大きく寄与している。Ir添加によってNiAlのクリープのみかけの活性化エネルギーが約200kJ/mol上昇することから、Ir添加は溶質元素を引きずる転位運動の抑制に関係する相互拡散係数の低下ではなく、刃状転位の上昇運動に関係する自己拡散係数を低下させる効果に優れていると考えられる。

 第5章では、第4章で得られた知見をもとに、さらなるNiAlの高温強度の改善を目指し、IrおよびTiを複合添加したNiAl合金の高温強度特性を調べた。また、Ir単独添加、Ti単独添加および複合添加によるNiAlの強化機構をそれぞれ比較・検討した。複合添加によるNiAlの圧縮強度改善の効果は、873K~1473Kの温度範囲でIrまたはTi単独添加に比べ約2倍である。また、NiAlにとってTi単独添加は1000K以下での強化、Ir単独添加は1200K以上での強化に有効である。このことから、Tiは有効応力、Ir添加は内部応力を増加させるのに優れた添加元素であることが示唆される。NiAlの1273Kにおけるクリープ強度の改善に関しては、複合添加はIr単独添加に比べ高応力側でのクリープ速度の低下に効果的であり、結果として、より広い応力範囲で優れたクリープ強度を示すNiAl基合金が得られた。クリープ変形後の高応力側での転位組織は、Ir単独添加したNiAlはサブバウンダリー、複合添加したNiAlはランダム分布した転位が観察される。サブバウンダリーの形成は転位のランダム分布に比べ内部応力を低下させる。このような転位組織の違いが、高応力側でのクリープ強度の違いの原因であると考えられる。応力緩和挙動の解析から、Ti単独添加および複合添加による1273Kの温度でのNiAlの変形応力の著しい増大は、内部応力の増加の寄与が大きいことが明らかにされた。

 第6章では、本研究で得られた成果を総括した。