氏   名
Zhao Lan po
趙   蘭 坡
本籍(国籍)
中 国
学位の種類
博士(農学)
学位記番号
乙 第47号
学位授与年月日
平成12年3月24日
学位授与の要件
学位規則第4条第2項該当
学位論文題目
中国東北部における長白山と五大連池の火山灰土壌に及ぼす広域風成塵の影響
(Influence of tropospheric eolian dust on volcanic ash soils in Changbaishan, and Wudalianchi, northeast China)

論文の内容の要旨

 火山灰土壌を農業に利用するための土壌改良技術は,他の変異荷電性土壌を有する広い面積においても貢献できる。中国東北部の長白山と五大連池の火山灰土壌について,本格的研究は非常に少ないが,両地域の火山灰土壌と隣接土壌は,いずれも黄土質土壌である。黄土の影響を受けて,火山灰土壌の鉱物組成及び理化学性質などがどのように変化しているのか,他の火山灰土壌と比べて,どのような特性をもっているのかなどの問題は,非黄土質母材を主要な材料として生成された土壌に及ぼすアジア大陸起源の広域風成塵あるいは黄土の影響についての評価として,解明しなければならない研究である。

 本論文では,はじめに中国東北部の黄土質土壌(レス)について理化学的及び粘土鉱物学的特性を検討し,つぎに隣接している中国東北部の長白山と五大連池の火山灰土壌の理化学的性質,粘土鉱物組成,腐植粘土複合体の特性,荷電特性,及びこれらの性質に及ぼす広域風成塵の影響を検討し,その関連を考察した。その結果は次のようにまとめられる。

 1. 中国東北部における4種の黄土質土壌の中央粒径値は3.1~68μmである。黒土,チェルノジョームおよびアルカリ塩土は,中性~強アルカリ性で交換性塩基に富んでおり,レシベは酸性で交換性Alに富んでいる。これら土壌の粘土画分のSiO2/Al2O3モル比は,いずれも2.5以上である。シルト画分は1.4 nm鉱物,白雲母(イライト),カオリナイト,長石及び石英に富んでいる。粘土鉱物はいずれも1.4 nm鉱物を主体とし,白雲母、カオリナイト及び石英を伴った。白雲母から1.4 nm鉱物への風化過程は,中性~強アルカリ性で乾燥した黒土,チェルノジョーム及びアルカリ塩土においては,白雲母から高荷電スメクタイトを生成しており,酸性で湿潤なレシベにおいては白雲母からDi型バーミキュライトの生成が起っている。

 2. 長白山と五大連池の火山灰土壌断面のA/Bw/CあるいはA/Cの層位の順序,及びA層の明色は,母材の特性及び低い土壌発達程度を反映したものであり,大量な交換性塩基および相当量の粘土を表層中に含有することは,表層土壌に及ぼす中国の乾燥・半乾燥地域から空中を長距離運ばれた非火山物質の風成塵の影響が強いことを示唆している。表層土壌の腐植酸はいずれもRpとB型であり,弱い腐植酸の腐植化過程として特徴づけられる。全炭素の含量は,ピロリン酸抽出Al+1/2Feの含量との間に有意な相関があり,活性AlとFeは腐植累積についての寄与が大きいと考えられる。

 3. 長白山と五大連池の火山灰土壌断面の表層土では,2:1型の粘土鉱物,カオリナイト,微細石英およびオパーリンシリカの優勢によって特徴づけられるが,一部の長白山土壌断面のC層では,テフラ堆積物の風化により生成されたアロフェンとフェリハイドライトが存在する。石英試料の酸素同位体比によって,表層土の2:1型の粘土鉱物,カオリナイト,及び微細石英は,広域風成塵起源と推定された。表層土中のオパーリンシリカは,テフラの風化により溶脱され,土壌溶液中に含まれるSiより形成されると推定した。粘土鉱物学的性質,石英含量及び微細石英の酸素同位体比から,中国東北部の火山灰土壌の形成過程は,広域風成塵の影響を強く受けたことを明らかにした。

 4. 長白山と五大連池の火山灰土壌の表層土では,広域風成塵の影響は,複合体組成がG2複合体を主体として,G1複合体の含量及びG1/G2を増大させている。G1/G2は火山灰土壌に対する広域風成塵の影響を示す指標である。表層土のG2複合体の炭素含量が最も多いが,広域風成塵の影響によって,土壌断面の各層中に累積された炭素は,G2複合体の含有量が減少するに伴いG1複合体の含有量が増加した。表層土の複合体粘土総量は,いずれもG2>G1G0の傾向がある。また,G1複合体の粘土含量は土壌中の粘土含量によって規定される。即ち,広域風成塵の影響が強いほどG1複合体の粘土含量が多くなる。長白山の土壌断面において,表層土の1.42nm鉱物とカオリナイトの含量は,いずれもG2>G1>G0の傾向があり,また,白雲母或いはイライト,及び長石の含量は,G1>G2>G0の傾向を示した。

 5. 電位差滴定曲線の形状は,長白山と五大連池の火山灰土壌は変異荷電性を有することを示している。滴定曲線の勾配によって,五大連池の土壌に及ぼす広域風成塵の影響は,長白山の土壌より大きいと推定された。また,断面深度の増加に伴って,土壌の滴定ゼロ点(ZPT)は大きくなること及び荷電ゼロ点(ZPC)の転位距離(σi)は,小さくなることを明らかにした。広域風成塵の堆積及び有機物の集積は,土壌のZPCを低くし,σiを大きくする要因と考えられる。

 以上の研究結果から,中国東北部の火山灰土壌と隣接している黄土質土壌とは,理化学的性質、鉱物組成、粘土腐植複合体、荷電特性及び石英の酸素同位体比等について比較すると,多くの類似点があり両地域の火山灰土壌は黄土質土壌と密接な“血縁”関係を有していることを明らかにした。即ち,両地域の火山灰土壌の結晶性鉱物及び微細石英は,いずれも黄土質風成塵からの起源であり,それに伴う特性を持っていると推定した。