氏   名
Tanaka,Masayasu
田 中 正 泰
本籍(国籍)
東京都
学位の種類
博士(農学)
学位記番号
乙 第45号
学位授与年月日
平成12年3月24日
学位授与の要件
学位規則第4条第2項該当
学位論文題目
植物病原菌が生産する植物毒素の有機化学的研究
(Organic Chemical Studies on Pytotoxins Produced by PhyMIDDLEathogens)

論文の内容の要旨

 果樹や野菜といった作物の植物病原菌からは、感受性作物(品種)にのみ毒性を示す宿主特異的毒素が分離されており、病害の発現機構の解明に重要な役割を果たしている。一方、雑草の植物病原菌については、主にStrobelらのグループによる植物毒素の探索が試みがなされ、maculosin、bipolaroxinやgigantenoneなどが報告されている。筆者らは、除草剤としての農薬活性本体となるような物質を見出すことを目的として、雑草の植物病原菌を中心に探索研究を行ってきた。本論文では、これまでの研究で得られた生理活性物質、特に、雑草の植物病原菌が生産するポリケタイド系植物毒素を単離し、構造を明かにし、さらに、生物活性や生合成について調べている。

 すなわち、第1章では、水田雑草クログワイの植物病原菌Nimbya scirpicolaの植物毒素としてdepudecinについて述べている。この化合物は、宿主であるクログワイをはじめ、数種の植物に対して1×10-3~1×10-1 Mの投与で植物毒性を示した。Depudecinは、癌細胞の形態を正常化させる活性物質として、既に報告されていたが、植物毒性については初めての発見であった。さらに、depudecinは、これまで生合成について研究例の少ない直鎖ポリケタイド系化合物であったので、第4章において、depudecin分子を構成する炭素原子や水素原子の由来について報告している。同位体でラベルした酢酸や水の投与実験により、depudecinの骨格は酢酸由来であること、酢酸のメチル炭素上の水素はdepudecin分子の酢酸のメチル基由来の炭素に保持され、カルボニル基由来の炭素への転移は起らないこと、さらに、生合成の途中で、C-3位の水素原子が他の位置の水素原子よりも水素交換され易い経路を経ていることを明かにした。

 第2章では、クログワイの植物病原菌Dendryphiella sp.の生産する、新規な植物毒素dendryol A, B, CおよびD、さらに、spirocyclic g -lactam構造を持つtriticone Cについて述べている。4種のdendryolについては、NMRスペクトルとX線結晶構造解析により相対立体配置を含めて構造決定した。有傷投与試験における植物毒性について調べたところ、宿主であるクログワイやイネ、トウモロコシ、ササゲなどに対して、いずれの物質も1.7×10-2 Mで毒性を示さなかったが、全てのdendryolがイヌビエに対してのみ毒性を示すという選択性が認められた。Triticone Cは、イネ科雑草の植物病原菌から単離された植物毒素triticone AやBの類縁化合物ではあるが、植物毒性はないと菅原らにより報告されている。

 第3章では、シダの一種から分離された糸状菌Nigrospora oryzaeの生産する、新規な植物毒素nigrosporin AおよびB、2種の蛍光性アントラキノン誘導体、さらに、bostrycinについて述べている。Nigrosporin AおよびBと、2種のアントラキノン誘導体は、主にNMRスペクトルと誘導体化により絶対立体配置を含めて構造決定した。Nigrosporinや蛍光性アントラキノン誘導体に見られる2,3-dihydroxy-2-methyl構造を持つ物質としては、多くのaltersolanol類が知られている。しかし、絶対立体配置は、bostrycinについてのみ全合成や分解反応により2S-3Rであることが調べられていた。今回、得られたnigrosporin AおよびB、さらに、2種の蛍光性アントラキノン誘導体については、新Mosher法を用いてbostrycinと同じ2S-3Rであることを明らかにした。

 Nigrosporin AおよびBは、植物に対しては、0.5×10-4~0.5×10-3 Mの低濃度で光合成阻害、壊死斑形成や根伸長阻害を示した。さらに、抗菌活性については、3.2~6.6×10-4Mにおいて、Bacillus subtilisに対してstreptomycinと同等の強い活性を示すことを明らかにした。