氏   名
Igarashi,masayuki
五十嵐 雅 之
本籍(国籍)
群馬県
学位の種類
博士(農学)
学位記番号
乙 第44号
学位授与年月日
平成12年3月24日
学位授与の要件
学位規則第4条第2項該当
学位論文題目
新規農業用抗生物質AB5046, レゾルマイシンおよびホルママイシンに関する研究
(Chemical Study on Novel Agrochemical Antibiotics, AB5046s, Resormycin and Formamicin)

論文の内容の要旨

 近年、耐性病害虫の出現や環境に対する社会的要求により新しいタイプの農薬が強く求められている。天然物由来の農薬は、合成化合物と異なる作用機構を有するものが多く、 よって既存の農薬に耐性を獲得した病害虫に対しても有効な農薬になると期待される。また、天然物は、土壌中で分解を受けやすいことから環境への残留性が少ない農薬にもなると思われる。

 著者は、微生物の代謝物より農薬となる有用な新規化合物を発見できると考え、それらを探索し、得られた化合物について、その開発応用に関して基礎的な研究を行った。

 第1章では、クロロシス誘起物質AB5046AおよびBについて述べた。除草剤開発を目的に、クロロシス誘起物質のスクリーニングを行った。その結果、Nodulisporium属の一糸状菌AB5046株が、ヒエに対し強いクロロシス(白化)を誘起する2種類の物質を生産することを見出し、それぞれAB5046AおよびBと命名した。本物質の精製・単離は、生産菌の培養ろ液より酢酸エチル抽出し、シリカゲルクロマト、シリカゲル薄層クロマトおよびセファデックスLH-20クロマトにより行った。AB5046AおよびBの分子式はMSにより、 それぞれC10H1404およびC8H1004と決定し、 両物質の構造は理化学的性質および各種スペクトル解析より決定した。本物質のクロロシス誘起活性は、単子葉植物に対し6.25~12.5ppmで強い活性を示したが、双子葉植物に対しては活性を示さなかった。本物質の構造は、acylcyclohexanedione骨格を有する化合物で天然物としては極めて珍しいものであり、本物質と同系統の合成化合物であるbenzoyl cyclohexane-dione系化合物は、強力な白化型除草剤として開発途中にある。本物質が単子葉と双子葉の植物間に対して明瞭な選択的作用を示したことから、同系統の化合物は構造変換により選択的除草剤となる可能性を示唆した。

 第2章では、殺草活性物質レゾルマイシンについて述べた。殺菌剤の開発を目的にイネいもち病菌を用いたスクリーニングを行った。その結果、放線菌Streptomyces platensis MJ956-SF5l株が、 強い抗菌活性を有する物質を生産することを見出し、レゾルマイシンと命名した。本物質の精製・単離は、生産菌の培養ろ液より活性炭クロマト、アンバーライトIRC-50, 同CG-50クロマトおよびセファデックスLH-20クロマトにより行った。本物質は、高分解FABMSより分子式をC21H32ClN409と決定し、理化学的性質および各種スペクトル解析より本物質の平面構造を明らかにした。さらに、本物質の絶対構造は、NOE実験と分解実験より決定し、X線結晶解析により全構造を確認した。本物質の生物活性は、数種の植物病原糸状菌に強い抗糸状菌活性を有することが示され、さらに植物に対しても強い殺草活性を有することが判明した。即ち、本物質は、数種の植物病原糸状菌に対し0.78~50μg/mlで抗菌活性を示した。さらに、 本物質はレタス芽生え試験において、 1.0μg/mlの濃度で完全に生育を阻害し、また、 1.5~2葉期の各種雑草に対し茎葉処理により250~1000μg/ml(25~100gai/10a)の濃度で強い殺草活性を示した。本物質は、3種の異常アミノ酸で構成されたペプチド系抗生物質で、既知の殺草活性物質には類似した化合物が無いことから作用機構に興味が持たれた。

 第3章では、抗糸状菌活性物質ホルママイシンについて述べた。殺菌剤の開発を目的にイネいもち病菌を用いたスクリーニングを行った。その結果、Saccharothrix属の一放線菌MK27-91F2株が、イネいもち病菌に対し強い生育阻害活性を有する物質を生産することを見出し, ホルママイシンと命名した。本物質の精製・単離は、生産菌の培養菌体よりアセトン抽出、液々遠心分配クロマト、 シリカゲルクロマトおよびセファデックスLH-20クロマトにより行った。 本物質の分子式は、高分解FABMSよりC44H72013と決定し、本物質の平面構造は理化学的性質および各種スペクトル解析より明らかにした。さらに、本物質の絶対構造は、分解実験とX線結晶解析により決定した。本物質の生物活性は、種々の植物病原糸状菌に対し低濃度で抗菌活性を示し、 さらに、 ポット栽培植物による防除効果試験でオオムギうどんこ病およびキュウリべと病に対し100μg/mlで優れた防除効果を示した。 ホルママイシンは、 V-ATPaseの特異的阻害剤として知られているbafilomycinと同系統の抗生物質であった。 従って、 本物質の作用機構は、 bafilomycinと同様であると考えられることから、 このような呼吸鎖の阻害剤は、 抗糸状菌剤の標的として有効であると考えられた。

 以上、 著者は、 本研究により3つのタイプの新規化合物計4種類を発見し、 それぞれAB5046AおよびB、 レゾルマイシン及びホルママイシンと命名し、 それらの詳細な化学構造および農薬活性について明らかにした。 これら化合物より得られた新知見は、 農薬開発に大いに役立つものと思われる。