氏   名
Kato,Jun
加 藤   淳
本籍(国籍)
北海道
学位の種類
博士(農学)
学位記番号
乙 第43号
学位授与年月日
平成12年3月24日
学位授与の要件
学位規則第4条第2項該当
学位論文題目
アズキおよびインゲンマメの加工特性とその変動要因に関する研究
(Studies on characteristics for food processing of adzuki beans and common beans, and factors for their variation)

論文の内容の要旨

 アズキおよびインゲンマメの品質関連形質と加工特性の関係及び、栽培環境や貯蔵条件を含めたこれらの変動要因に関して検討を行い、以下の結果を得た。

1.アズキの製アン特性と品質関連形質の関係

 アズキ主要品種「エリモショウズ」の特徴としては、種皮色のL*値(明度)とb*値(黄 味度)が高く、明るく鮮やかな色調であった。十勝産の特徴としては、百粒重が大きく、タンパク含有率および種皮色のL*値とb*値が高く、種皮色の変動幅が小さかった。生アンの色は種皮色に比べ、L*値は著しく上昇し、a*値(赤味度)とb*値は低下した。加糖すると、L*値は著しく低下し、a*値は僅かに上昇した。種皮、生アン、加糖アンのL*値とa*値には、それぞれお互いに有意な正の相関が認められた。平均アン粒径には、品種、年次および産地間で差が認められ、品種の違いによる変動が大きかった。「エリモショウズ」の平均アン粒径は約100μmと小さかったが、「アカネダイナゴン」では約111μmと大きかった。百粒重と平均アン粒径の間には有意な正の相関が認められた。官能試験の結果から、粒径の小さなアンは舌ざわりがなめらかで好まれ、粒径の大きなアンは舌ざわりがざらつき好まれないことが確認された。煮熟増加比とアン収率の間には高い正の相関が認められ、アン収率は煮熟増加比を説明変数とした回帰式により推定可能であった。

2.アズキ種皮色の変動要因と2次元座標表示

 アズキ1個体内における種皮色の変異は、L*値とb*値では上位の節位ほど高かったが、a*値では節位による変化が小さかった。L*値とb*値は開花時期が遅くなるほど上昇した。着莢節位間でみられた種皮色の変異は、各節位における開花時期の違いを反映したものと判断された。従来より用いられているL* a* b*表色系による測定値を、L*値およびC*値(彩度)を座標軸に用いた2次元の色調図で示すことにより、アズキ種皮色の差異を簡略に表現することが可能であった。品種による特徴は主としてC*値の座標軸方向に認められ、収穫年次または栽培地による変動はL*値の座標軸方向に大きく認められた。アズキ種皮色と気象要因の関係については、L*値と登熟期間の平均気温との間に、有意な負の相関が認められた。L*値で認められた収穫年次および栽培地による変動は、登熟期間の気象条件により生ずるものと推察された。

3.インゲンマメの製アン特性に及ぼす子実形質の影響

 アズキと異なりインゲンマメでは、種皮色から生アンの色を判断することは困難であった。タンパク含有率が低く、デンプン含有率の高いインゲンマメでは、アミログラム最高粘度が高い傾向にあった。手亡類では煮熟時間40分で煮熟増加比がほぼ一定に達していたが、大福類では80分でも煮熟増加比は上昇傾向にあった。金時類では煮熟時間60分程度まで煮熟増加比の上昇が認められたが、40分で煮熟は十分に進んでいた。煮熟増加比とアン収率の間には高い正の相関が認められ、手亡類、大福類、金時類といった同じ種類の中では、一定時間における煮熟増加比は煮えやすさを現す指標となり得た。インゲンマメの平均アン粒径は、大福類で小さく、金時類および手亡類で大きかった。百粒重と平均アン粒径の間には、同じ種類のインゲンマメの中では有意な正の相関が認められた。

4.インゲンマメの煮豆加工特性に関わる変動要因

 煮豆加工過程において、種皮色と煮熟粒色との間に有意な相関は認められず、種皮色から煮豆の色を推定することは困難であった。煮熟増加比とレオメータによる煮熟硬度の間には高い負の相関が認められ、煮熟増加比の大きなインゲンマメでは、子葉部および種皮部の煮熟硬度が低く、これらは煮熟増加比を説明変数とした回帰式により推定が可能であった。煮豆のかたさの官能評価値には、機器測定値との間に関連性がみられたが、異なる品種間での比較では、同一品種間の比較よりも識別率が劣った。子葉部硬度は、主要品種の「大正金時」に比べ「福勝」で低く、「北海金時」と「丹頂金時」では高い傾向にあった。種皮部硬度は、いずれの年次でも「福勝」が他品種よりも低かった。煮熟硬度には収穫年次や栽培地により変動がみられたが、施肥および土壌条件による差は認められなかった。百粒重が小さく種皮率が高い年次では種皮部硬度が高く、タンパク含有率が低くデンプン含有率が高い年次では子葉部および種皮部硬度が低い傾向にあった。煮熟硬度の年次間の変動要因としては、降水量や日照時間などの気象要因の関与が示唆された。

5.アズキおよびインゲンマメの貯蔵過程における加工特性の変動

 収穫後2年にわたる長期貯蔵において、アズキは常温倉庫では煮熟増加比とアン収率、並びに種皮色のL*値とb*値の低下が大きかった。5℃貯蔵では収穫後2年目まで大きな変化はみられなかったが、低温倉庫(15℃以下)ではわずかに低下した。手亡は、常温倉庫では収穫後1年程度で煮熟増加比とアン収率の低下及び種皮色のb*値の上昇がみられた。低温倉庫では収穫後1年間、5℃貯蔵では収穫後2年目までは大きな変化が認められなかった。金時は、常温倉庫では収穫後半年以内でも煮熟増加比が低下し、子葉部および種皮部の煮熟硬度が上昇し、種皮色のL*値が低下する傾向にあった。低温倉庫では収穫後1年以上でこれらの変化が大きくなったが、5℃貯蔵では収穫後2年目までは大きな変化がみられなかった。アズキと金時では真空包装により種皮色のL*値の低下が抑制され、いずれのマメ類も、煮熟性の劣化したものでは浸漬液固形分や電気伝導率の上昇がみられ、これらはアズキおよび手亡のアン収率とは高い負の相関が、金時の煮熟粒硬度とは高い正の相関が認められた。オーストラリア産アズキ2品種の品質特性に関しては、種皮色のL*値とb*値は「エリモショウズ」に比べ「Bloodwood」でやや高く、生アンのb*値は「Bloodwood」で高かった。煮熟増加比は「Bloodwood」で低く、平均アン粒径は「Bloodwood」で大きかった。日本人およびオーストラリア人パネルによるツブアンの官能試験の結果、品種の違いは日本人パネルにのみ識別された。貯蔵温度 (10℃と30℃)による差異は両パネル共に、「Bloodwood」で有意差が認められた。両パネルの嗜好性は異なったが、「Bloodwood」のアン色は「エリモショウズ」に比べ暗いと評価された。貯蔵温度が食味に及ぼす影響は「Bloodwood」でより大きいことが判明した。